『食欲の権化』
むしゃむしゃ
もぐもぐ
ごくん──
たくさんのフルーツがあるおかげで
私たちの家は今
果物が食べたい放題、
果物ジュースが飲みたい放題の
南国の畑のようになっているというわけ。
むぐむぐ。
ジューサーは朝から晩までうなりをあげ
まな板の上はトロピカルな果汁がはじける。
レンジから届くいい匂いも
煮える鍋の音が教えてくれるのも
りんごにみかんにバナナにキウイにももかん、
パイナップルとぶどうといちごたちが
あるときは籠から、あるときはジャムのビンの中から
食べやすくなってお皿に乗るのを待っているという知らせ。
いくら果物が冬場に役立つ栄養をたくさん含んでいて
体にいいと言っても
バランスよく食べる前提で話は進むべきだと思うの。
もくもく。
一度にたくさん食べられるものではないから
料理ということになる。
つまり──
がんばって作ったからと
踊るエプロンのさりげない酷使の跡を見るまでもなく
手の込んだ工程が一目で分かる料理、
工夫が凝らされた飾りつけ──
ぱくぱく。
アラザンの銀色、テーブルクロスを埋め尽くすスプーン、
食欲をそそる湯気が部屋に満ち
氷のボウルでアイスクリームが出番を待っていたら
私たちは食事を残すことはできない。
胃袋が休憩を望んでも
無茶を通す心の扉はこじ開けられてしまうんだわ。
フルーツサンドの皿が終わるとき、
見て!
お肉に添えられたいちじくのフレッシュな色。
私にはもうわかってきた──
あのお皿に乗せられてきた隠れ潜むものたち。
この香りのもとはソースにあるに違いない。
場合によってはお肉を煮るときの味付けにまで──
私にお料理のことなんてわからないけど
こんな大騒ぎがいつまでも続くとは思えないわ。
気がついたらママが裏山に作っていた畑が、なんて噂は
実際にはあるわけがない。
手をかけないでいたらどんな畑も実らないのが当然で──
いつのまにか豊作になっているのはお料理マスターの腕前であって
そんなになんでもかんでも収穫の時期がまとめて押し寄せるなんてまさか──
というわけで
私たちはよく食べて収穫を待つ前の段階らしいの。
細かいことを心配していたら大きくなれないって
海晴姉様が言ってたわ。
それは、充分細かいことを言いながら過ごしていると思うけどいいのかしら。
うーん──もう少し大きくなってから考えることにするわ。