夕凪

『ジャンプジャンプ!』
夕凪は浮かれたときに
すぐ飛び跳ねる。
おやつの時間だ!
花壇にかわいいお花が咲いたよ。
アリの巣みつけた!
お兄ちゃん
おかえり!
喜びの大きさで
ジャンプの高さも変わるような気がしたけど
それは気のせいだって
星花ちゃんが言ってた。
夕凪とよく遊ぶ星花ちゃんが言うなら
たぶん合ってると思うよ。
というわけで
夕凪は今日も跳ねている。
よく晴れたのがうれしくて
縁側から靴下のまま庭に飛び出しても
うまいぐあいに雨の後じゃないから
泥がつかなくてよかったと言って
また跳ねる。
本当は、落ち着きのある大人を
お手本にして
おしとやかになろうと心がけないと
いざ大人になってお嫁に行くときに
とつぜん美人にはなれないよ。
どこの国のどんな歴史にも
むかしやんちゃだったお姫様はいても
大きくなっても飛び跳ねてばかりいたお姫様はいないよ。
夕凪は大きくなっても
お嫁さんになれないかもしれない。
こまったねえ。
どうしよう。
もしかしたら……
世界ではじめて
いつまでも飛び跳ね続けていた
幸せなお姫様になるかもしれないじゃない!
ほ、ほんとに!?
夕凪──まさか自分が
歴史に燦然と輝く名前を残すかもしれないとは思わなかった。
まあ言ってみただけで
本当にそうなるかもとは
ちょっとくらいしか思っていないけど。
指と指のあいだで計ると
この──5ミリくらい。
いや、せめて1センチくらい。
みじかいな!
夕凪がどうなっても
そんなみじかいことをお話しするより
今日の高さのことにしよう。
夕凪、今日はなんだか
お兄ちゃんと跳びたいの!
気分で──
いきなりなんか
これまでにないほど高く跳びたい!
って思ったから。
それが理由!
というわけだから
お兄ちゃんと手をつないで
こっちに星花ちゃんも呼んで
夕凪がうれしくてたまらなくなったら
まわりに吹雪ちゃんやユキちゃんにも声をかけてもらって
みんなでジャンプするよ。
いけそうな気がする。
夕凪がいけそうな気がした時は
だいたい、気がしただけで終わるけど
今日は違うと思う!
何か今までにない予感で胸が膨らんでいる……
あ、これは単に春のせいなのかも。
ともかくお兄ちゃんは
夕凪のために手を貸して。
夕凪のためだけに──
合図をしたら
生まれてからいちばんに
うれしくなってください!
いっくよー
一度決めたら待たないよ!
準備できた?