綿雪

『やさしい景色』
冬はときどき遠ざかり
また近づいて
冷たい風がみんなの肌を刺す頃に
くっつきあって暖めあっていると
雲が晴れた時に近づいた顔が照れくさいような。
ユキももっとお兄ちゃんに手を握ってもらって
暖めてもらうのが
顔が熱くなるほど恥ずかしくなくたっていいのにと思う毎日。
ゆっくりと、でも確かに
季節は進んでいるのが
だんだんわかってくる。
だって白く凍りつくみたいだった硬く厳しい光が
このごろあんまり
窓の外に見つからなくなってきているの。
学校から帰ってきた後は
まだ、あまり遠くへ行くのは怖いけど
お庭へ出てみたくなる時間も増えました。
光の加減も風の匂いも変わって
うれしがって大きく目を開けたら
葉っぱがなくて枝を大きく広げていることを
怖れているようだった木の間に
また変化が見つかる。
それはまだ吹いたばかりの芽で
はっきり気がついてよく見てみたら
決して小さくなんてないんです。
明日やあさってや
みんなが学校や幼稚園で教えてもらってきた歌が流行っている間は
まだすぐに開くという感じではないんだけど。
氷柱お姉ちゃんたちが並べてくれたお雛様を追いかけて
そろそろだと思ったのかも。
かわいいだけじゃなくてたくましい
なかなかの大きなつぼみが
高い木のあちらにもこちらにも
手を伸ばしても走っても足りないほどに顔を出して
もうすぐ目を開けて──
ユキたちの楽しい毎日を見つけてくれるのかもしれませんね。
きのう、おうちの中に桃の節句のお祭りが春を告げに来たの。
でも、お庭で見つけた春は
枝を取ってお部屋に持ち帰ったらかわいそうです。
お絵かき帳を用意して
折りたたみの椅子を探して──
去年の子供用のは
もうユキには窮屈でしょうか。
いざお庭へとわくわくしていたのに
今日はあいにくの曇り空です。
一人ぼっちでばかりいないで
たまにはおうちの中で遊んでもらいなさいということなのかしら。
華やかなお雛様のまわりに
ますますきれいにしたくて春の景色を持っていこうとしても
それはもう少し暖かくなってから。
つぼみが開くのは
お雛様がユキたちを優しく守ってくれて見せて
箱に戻っていった後だとしたら
一緒ならきっときれいな景色になるのに残念ですね。
まだ急いでやってくる気配はない春の足音──
お兄ちゃんに教えてもらった暖かさが好きだと
いちばんにわくわくして待っているユキには
誰よりも早く聞こえてくるかもしれないんです。