氷柱

『かわいい雛人形
とうとう我が家にも
今年の雛人形が並べられる。
しまっておいたお人形たちは
いつもの年と変わらずに
褪せることのない色で鮮やか。
女の子がいっぱいの家の雛人形
毎年のことなのに
飾りも豪華で数が多くて
去年の写真と比べなくちゃ
二度と再現できないくらいね。
なんだか気のせいか
年々増殖を続けて
幅を取る場所を増やしているような……
出てきてしまうと
なんか記憶にあるより場所をとって邪魔になる感じね。
これ、減らしたらダメなのかな?
小さい子たちが一生懸命手伝おうとしてくれたみたいに
ぎゅーっと座る場所を詰めていって
圧縮していく手もありそうだけど
それだとやっぱり
誰がとったかわからないと思って
飾りのひし餅を食べてしまいそうな子もいるのかもしれない。
まあ縁起物だからね。
飾り方を間違えたくらいで力が消えてなくなるような
面倒くさい神様まで抱え込むのはごめんだけど
守ってくれるというなら好きにさせてあげましょう。
なんだかんだで
こんなにおてんば揃いで目が離せない子ばっかりの家を
一応たいした怪我も大病もなく暮らせるように見守っているのだから
まあまあ頼りになると言えるのかしら。
こーんなのどかな顔をして
まあ見た目によらないというか。
人間も顔ではわからないものだけど
お雛様も相当なものだわ。
私たちの家では五月飾りはないから
一年に一度くらいこうして邪魔な飾りを出すために
わいわい大騒ぎをしてもいいのかもね。
下僕は自分のお人形がないと
寂しくて泣いてしまうほう?
がっかりしなくても──
知ってるでしょう?
おうちの雛人形はこれだけの人数の姉妹を
今まで毎年元気に育ててきたんだから
一人くらい見守る相手が増えたってなんともないに決まっているわ。
多少は気がきいてもらわないと
毎年苦労して飾ってあげてる意味もないんだから。
しっかりね!
下僕もとりあえず言っておいたら。
もしかしたら心証も違うかもよ。
ああ、それにしてもお人形くらいで
春はすぐそこ、みたいな気分に
ついうっかりなってしまうんだから
人間のほうも単純なものだわ。
もうすぐ新しい世界を
どんどん広げていく子供たちを
どうか──
その優しいまなざしでいつまでも見守ってあげてください。
なんてね。
祈ったくらいで労せず幸運がやってくるならそんな簡単な話はないけれど
みんながこんなにきれいに並べた日くらいは
叶えばいいなと思う程度のお願いをしてみたところで
別に誰も茶化したりなんてしないはずだもの。
下僕も力仕事はしっかりしてあげた?
これで私たちにまたいい春がやってくるわね。