小雨

『涙目』
あっ!
お兄ちゃん、見てはダメです!
小雨は……
小雨は、泣いてなんかいません!
……
うそですけど……
でも、がんばって涙は途中で止めたし
いったん外したメガネがどこかに行ってしまっても
なんとか見つけられたから
大丈夫です!
明日は明るい笑顔になれます。
確かに──
涙の原因になった
指先の小さなやけどは
すぐ治らないかもしれないけど。
2、3日だけキッチンに出入り禁止になるだけだから
バレンタインには
ぎりぎり間に合いますから!
お兄ちゃんにチョコレートをあげるのも
たぶん大丈夫のはず。
女の子の夢ですから──
好きな人に
バレンタインのチョコレートを受け取ってもらうのは。
お兄ちゃんは優しいから
みんなからもらったチョコレートを
毎年とても喜んで食べてくれるの。
小雨は──
きょうだいでは、年は上のほうだから
妹たちよりも少しは積み重ねた経験を生かして!
できればおいしいチョコレートを作って
それで、もっと喜んでもらえたらなあって思っています。
本当にお兄ちゃんがそんなに喜んでくれるのかは
小雨には全然わからないけど
できればそういう努力をしたいなっていう
小雨のわがままなのかもしれないけど……
あんまり手の込んだ工夫をするのは
だめだとわかってしまいました。
でも!
観月ちゃんにもユキちゃんにも
早く治りますようにと魔法をかけてもらって、
さらにおまけに
治ったら、チョコレート作りが今までよりも
もっと上手になれってパワーを込めてくれたから
怪我をしたおかげで……かえって上手になって
得をした……かも……
だから、涙を流す理由なんてないんだから
小雨は泣いてなんかいません。
少しの間、みんなと一緒にいる時間が少なくなるのは
さみしいかな……
あ、お兄ちゃんもそうだって聞いています。
小雨がさみしいなんていったらいけないですね!
だったら……
小雨が辛気臭い顔をしていなかったら
お兄ちゃんが楽しくなるのを助けることが
できるかな?
小雨は、すぐ笑顔になれますから
何か──できることがなんにもないとは限らないし
にっこりの小雨のところに遊びに来てください!
すっごい笑顔です!
誰よりも……
もしも悲しいときにも
誰かのために笑っていること。
ちっとも明るくないかもしれない小雨だから──
人一倍の自信を持てるくらい
得意になりたいんです。
お兄ちゃん、さみしいときは小雨に相談してみてね。
解決するかはわかりませんけど、努力してみます!