『小さな夢』
大掃除の時にあらわれて
いまだにしまいかねている
本の山。
いつでも押入れに持っていけるように
ビニール紐のお供を脇につけているんだけど
せっかくだから縛る前にと思って
開いてしまうと
もうだめですね。
わかっているのにね。
卒業アルバムまで混じっているから
懐かしくて、古い記憶が新鮮で
時間を盗んでいってしまうことを
知ってはいるんです。
だってほら。
大きくなったときの夢が
きらきらしてる!
こんなときが蛍にもあったんですね。
もっとお裁縫が上手になっておしゃれな服を作りたいという夢は
叶っているのでしょうか?
上達は……
ちょっとは
したかな?
でも、あの時にぼんやり考えていたほどの腕前は
まだまだ程遠い気がします。
別に世界一のお針子を目指しているのでもなく
続いている日常に
ほんのりわずかなうるおいを届けることができたなら、
みたいな夢。
目を輝かせていた昔の蛍が見たら
思っていたのとはまた違うかもしれないけれど
蛍の毎日は
現状、大きな夢に挑んで泣いたりすることもなくて
もうしばらくはこのままでと思いながら続いている。
忙しさと
今日もみんなの服の仕立て直しと
わりと満足とでできている。
あっ。
お兄ちゃん。
さてはこれは
前ふりだと
疑っていませんか?
ここから隙を突いて
フェイントだったと思わせる間もなく
懐に飛び込み
そんな私に
大きな夢ができました!
なんてふわりふくらんでひるがえるスカート。
残念ながら
そういうことはないんです。
でも。
蛍にしてはちょっと大それた夢があるとしたら
小さい頃に目をきらきらさせて
胸をいっぱいに期待で膨らませながら語っていた
昔があったみたいに
蛍が毎日及ばずながら精一杯お世話を焼いてあげている
みんながこれからも
照れくさそうに夢を言葉にするときに
あんがいすぐそばで話を聞かせてもらったり
こんなふうにアルバムをのぞきこむように近づいては
実は何もしないで微笑んでいるように見えて
毎日の大変なことや忙しいことを支えながら
ずっと──
うれしそうでたまらないみたいに何かを目指すときの
お手伝いがこっそりできたらなあと
みんなの最近の顔を思い浮かべながら
勝手ににやにやする日々。
これからも続いていけたらなという
のんきな午後のお話でした。
おしまい。