ヒカル

『目の錯覚』
あれ?
今……
見かけたのは
あれは虹子だったのかな。
おしとやかに歩いていったような。
うーん、でも
やっぱり気のせいか。
なんだかちょっと
今までよりすごく
背が伸びたようだったけど。
見直したら、昨日までと同じ
かわいい虹子が遊んでいる。
普通どうやっても
一日や二日でぐんと急に大きくなるわけないもんな。
気がついたらいつの間にか大きくなっているのが
人間のこども。
そのときは
ええっ!
こんなに!?
って、びっくりしてあげたいのに──
これからだっていうのに
今のうちから幻を見ているようでは
まったく、先が思いやられるな。
ついさっきもみんなで
今年をなんとなく振り返りながら
いろんなところへ出て行ったり
家の中でゆっくりしたっけ、
みたいな話になると
やっぱり今までと変わらずに
あどけなく笑って話すのは
あれがおいしかったとか
おみやげに持って帰ってきてくれたお菓子がおいしかったとか
これだけの年代の子がいながら
驚くくらい
話はそればっかり!
もちろん私だって高尚な話題なんて何も出てこない。
一年を振り返ったときの思い出、
いろいろあるのに。
気がついたら
この一年ですぐ出てくるのは
いつかの夕食だった普通のカレーの話。
小さい子はまだ慣れないスプーンで食べるのに一生懸命で
そばについていてあげないといけないし
ちょっと大きくなると、味のことや量にこだわりはじめてうるさい。
オマエは今、
どのあたりの年頃になるかな。
みんなのにぎやかな主張ばっかりを聞いて
なかなか相手をすることに慣れたりなんてできない
そういう日々があったなあって
やっぱり、こんな節目になんだか懐かしく思い返すような感じかな。
わずかに残された今年だって油断をしたら大変だ。
みんな、そう簡単に背が伸びて聞き分けのいい子になったりしない。
私がついているから
もうしばらくはそれでいい。
それなのに
さっきはどうして見間違えたんだろう?
まあいいか。
そんなとりとめのない話を
大掃除とお正月の支度のついでに家のどこかで誰かが続けているから
たまに暇ができたら声をかけてあげて。
私も誰かの思い出話に引きずられて
くたくたで外から帰ってきたあとに
温かいコーヒーの造り方も覚えたのを思い出して
また作ってみるつもり。
マグカップにお湯と
粉を入れる。
完成!
今年を振り返ってみて
できるようになったと一目でわかることがこれくらいしかなかったら
いったいどんな一年だったんだろう。
今年手をつけなかったことは来年の目標になるのかな?
次の目標をまた思いつくかもしれない。
だからこれから
新しい年が来ても私の隣にいて
何か思いついたら、こっそり耳打ちで教えてよ。
来年になったら
あけましておめでとう──
だから。
今しか言えないことは
今年一年ありがとう。
どうかこれからも
いつも一緒にいてくれたらと願う。
あっ!
こういうの、大晦日にとっておいたほうがいい?
まだ少し早かったかな?