氷柱

『秘密の力』
今日になっていきなり──
なぜか夕凪が
きらきらした目で追いかけてくるの。
私のことを、というか
学校に持っていくかばんを。
もっと正確に言うなら
かばんについているマスコットを。
こういうのが好きだったの?
あげようか、と聞いたら
とんでもない!
夕凪にはまだ早い、
なんて
よくわからないことを言う。
どうもはっきりしないままだと気持ち悪くて
さてはまた怪しいことを考えているな、
きりきり白状しなさい!
問い詰めたところ
すべてが明らかになったわ!
どうも春風姉様と約束をして
きれいにお天気にする方法を探していたところ──
そんな方法は現代科学において存在するわけがないんだけど
私が思いつきでつけてみたマスコットが
どうやらてるてる坊主に見えたらしい。
今日のすっきり爽快なお天気は私が呼んだものだと思い込んだみたい。
まあ、さすがに夕凪も
まさかそんな?
いや、でも──
あるいはもしかして、
ずーっと半信半疑ではあったようだけど
そもそも別に
てるてる坊主がお天気を呼ぶなんて根拠はない上に
ただの気まぐれで
お天気を祈って取り付けたマスコットではないし
そんな意味はないし
たまたま何か似ているように見えたとしても
これは単に
あたまが丸くて
体がヒラヒラしていて
妙ににこやかなだけの
そういう形をしているだけであって
私がおまじないなんて子供っぽくて理屈に合わないこと
するわけがないじゃない。
それはまあ
昨日まで、あまりお天気が良くなかったのは確かで
寒さが厳しくなって冬をますます実感する機会はある。
そりゃ、毎日よく晴れたほうが
まだ小さくて体調を崩しやすいユキも
元気に学校へ行けるようになるとは思ったわ。
もちろん
ちゃらちゃらした軽薄なものが好きじゃなくて
普段からあんまりかばんに余計な荷物を付け加えないのに
急に気が変わった理由は
晴れたらちょっとうれしいみたいな
かわいいお願いなんて
私には似合わないんだから
これはてるてる坊主に似たマスコットのように見える
とても実用的な意味を持つ
何か……
ほら、風向きとかもわかるし!
でないと私が
そんな迷信を信じているように思われて
心外だわ!
まったく、それにしても
おまぬけなように見える夕凪は
たまに目ざといところがあって
気がつかなくてもいいことを見つけ出す。
無意味に鋭い観察眼は
将来の研究者には向いていると言えるかもしれないわね。
意外と本当に
ぱっと晴れさせる方法を
いつかは見つけ出すかもしれないわ。
私たちの思いもよらない方法でね。
ああ、それから。
別にマホウの道具でもないし
深い意味は一つもないから
部屋にもういくつか余っていた
てるてる坊主……にちょっと似ている何かのマスコットを
夕凪に一つあげてみたの。
あの子なりに真剣な願いをこめていても
笑わないでいてあげてね。
ついでに
まだ余っているから
冬場のからりと晴れたお天気は
ちょっとしたお出かけや誰かと歩くには気持ちがいいということには
特に関係がなく──
もしも下僕がこの丸さや陽気な笑顔に実用的な意味を見出せるというなら
そうね。
頭を下げられると私も鬼ではないし
ひとつだけならあげてもいいわ!