麗

『ざわめき』
自宅ではない場所で
裸になる。
公共の場所で
人前で……
でも
いつのまにか慣れるものね。
別に誰もじろじろ見たりするわけじゃない。
みんなが脱ぐんだから
いちいち気にしていられない。
最初は周りに迷惑なくらいはしゃいでいた立夏ちゃんも
今ではもうすっかり落ち着いたものだわ。
てきぱき脱いで
早く洗おう、
足取りもしっかりと迷いがない。
まあ
脱いだ服はぐちゃぐちゃだけど。
そのうちなんとかなるかもしれない。
物怖じしないから。
というわけで昨日まで銭湯通いが続いたから
土曜日くらいはいいわよね。
この寒い中
休日が来たからってどこへ出かける予定もないから。
だいたいね、
広いお風呂を受け入れた瞬間
気が緩んだところを見計らって
なにしろご近所だから
顔見知りの人が話しかけてくるでしょ？
挨拶はするけど
ちょっと見ない間に
あらきれいになって！
と言われても
ちょっとってどれくらいなの？
きれいになったかどうか
私は知らないんですけど。
そうですねって言ったら傲慢だし
違いますって返したらお世辞だとわかっていても複雑な心境だし
ええ、
いえ、
はあ、
どうも……
ちょっとまぬけな返事しかできなくても
特に不都合はなく会話は進むので
湯船の前の
裸の付き合いって
まあなんというか
遠慮も何もないわね。
相手もこっちも
まるはだか。
目を逸らしても
どこを見ても
はだか……
寒い時期だからなのかな。
お世話になる場所が繁盛しているらしいのはいいことよね……
とにかく
人間にはどうしても
一人になれる時間が必要で
それが無理なら
せめて気を使わなくていい時間が。
私たちの女湯は
いつでも騒がしい。
少し長湯をして
みんながあがったあとにゆっくりつかっても
高い天井に反響する話し声で
どうも簡単に気は休まらない感じ。
男湯はどうなの？
世間話が絶えないイメージではないわね。
少なくとも
きれいになったねって言われて困ることはなさそう。
いえ、別にそっちに入りたくはないけど。
ただ男だったら気楽じゃないかなって思っただけ。
そのうち慣れるよ……
きっと。
ともあれ一日のお休みなら気にならないという子は結構いるの。
夜歩くのが怖いさくらちゃんや観月ちゃん、
やっぱりよそのお風呂は落ち着かない小雨ちゃんに星花ちゃんも
実はヒカル姉さまも
土曜の夜は羽を伸ばして
好きな時間を
贅沢に過ごしたいっていうんだから
いつも冒険に出かけてばかりじゃなくてもいいの。
なんだか意外な顔を見た気もする
静かに過ごす夜。
あなたも、もしも私の知らない男湯に気が進まないなら
特別にいさせてあげてもいいわよ。
我が家のお風呂は故障が直るまでもうしばらく。
明日もきっと
騒がしさに慣れてゆくことに戸惑いながらの
面倒な事態はまだ避けられずに続くわ。
吹きつける夜の寒さと
夜更けと共に忍び寄ってくる暗がりを避けて
自由を選んだ今だけは
気ままに家の中にいてもいいの。
もう決めたんだから
今日は
てこでも動かない！