ヒカル

『スローシャッター』
強い風が吹いた昨日からいきなり天気は変わって
ときどき雲がかかると薄着では寒いけれど。
夕方になっても夏みたいな気分でいたらいけないけれど
でもやっぱり昼間の気温は
そろそろ着慣れた春の服ではいられないかな、
という感じ。
こういうときに、気がきいてすでに
洗濯をして日に当て乾燥も済ませたさわやかな夏用の着替えを
タンスにきちんと並べておく春風は
ふだんは女の子っぽくて妹みたいにかわいいのに
頭が良くてしっかりしている。
私にはもったいない妹……じゃなかった、
ひとつ上の姉だけど。
もういつでもお嫁に行けるよ、
春風をもらえる人は本当に幸せものだろうなあ、
って感心して褒めるのも
小さな頃から繰り返してきたから
本人はすっかりお嫁に行ったような気分なんじゃないだろうか?
最近になると
ヒカルちゃんをもらってくれる人だって
幸せだと思います!
反撃もしてくる。
そうだなあ……
私がお嫁さんをもらったらなるべく苦労はさせないようにがんばろう、
というのは冗談。
まあ自分のことは良く知っているから
少しは家事ができる自覚がある男の人のところに行くほうがいいかなと
ぼんやりと考えている
まだ先のこと。
みんなの分の夏服もだんだん家中のたんすの中に揃ってきたから
かーんと気持ちよく晴れて
夏のはじまりみたいなしっとりした空気に包まれる日には
真っ白なシャツに着替えるのも気持ちがいいもので
今までにない服で気分が変わる感じもする。
あんまり突然、みんなの声がする景色がにぎやかなままで真っ白に変わったものだから
アルバムに残しておく一ページになったらいいな、という気がして
取り出したのはどっしり大きな中心を持った一つ目カメラ。
脇をしめて構えるように心がけないとブレてしまう。
こつをつかまないと、筋肉だけではどうにもならないことって
家の中の仕事だと結構あるだろう?
そのうちのひとつ。
重いカメラだから、というだけの理由で
たまに私が任されるお仕事。
好きな写真を残せる役得でもあり
思ったような写真が残せなくて
枚数ばかりが山になって詰まれていき
明日には、そんなこともあったっけって照れ笑いをしている
下手だけど好きでやってる素人カメラマン。
季節が変わる頃の私が着替える
薄着だけじゃないもう一つの姿。
だんだん光がまぶしくなる季節には
光が入り過ぎないようにシャッタースピードは速めに調節する、
技術もなくて、知識だけはあるのにな。
レンズが飲み込む光は少なくても
画面が暗くなりすぎる心配をしなくてもいい。
だってもうこんなに暖かくて
みんなが思い思いのお気に入りに着替えられる。
着なくてもいいっていう子もいて困らされてしまう
また新しい騒動の種がちょっぴり芽を出した今の時期は
つい癖でシャッターを開いたままの設定にしている理由なんて
ただ単に調子に乗って忘れていただけなのに
これは、いっぱいいろんな場面を写したくて
十分の一秒の調節だってもったいないと
そんな言い訳にならない言葉で恥ずかしさをごまかしている。
私も図太いけれど
写真に残す部分だけ切り取るなんてできないよね、って
納得しているみんなも
わりとのんきだな。
やっぱりこんな家族には
季節の変化もあんまり急じゃなくて
準備する時間をたっぷりもらえると助かるんだけどな。
例えば私が遊ぶみたいに
撮ったら面白い人を探して練習する時間も
もっとあったらと。
タンスからはみ出した着替えでいっぱいの
気持ちも次々と切り替わるような春が過ぎる頃、
モデルのお仕事にも
そろそろみんなは慣れたかな。
オマエだって油断していても
カメラマンはシャッターチャンスを逃さない。
この春いちばんの迫力あるあくびを
私たちのアルバムに残すまであきらめないから。