『白い悪夢』
雨は冷たく
気温は低く
手はかじかんで
買い置きのおやつは切れる。
フフ……
たまにはカップラーメンもいいものだな。
しかし寒さとは恐ろしいな。
こんな時、かつての私は
弟をこたつに呼んでくっついて座らせて暖をとるようになる以前は
どのように生活していたのか
今ではよく思い出せない。
もしかして、もっと前から
お前は我が家にいたのではないだろうか?
離れていても心は通じ合っていた……といったような。
そして、一度近づいてしまったら
もうお互いは離れることはできなかったというような。
ミステリアスでいいかもしれない。
心温まる考えでもあるし。
うどんと──
どちらが温まるかな。
食べたくはないか?
お前はてんぷらとあげだまと
油揚げならばどれを選ぶだろう。
もう全部乗せのロマンを求めるほど子供ではないだろうから
いずれかのトッピングにこだわりを持っていてもおかしくはない。
あるいはそれでも──
ごちゃごちゃしてしまってもなお
人は時には全部乗せのトッピングに夢を見る──
それもありかもしれない。
いつかはつゆを残さずに飲み干せるその瞬間まで
おいしく。
おかずと比べて麺がもう少しほしかったとか
味が多いのだからここに唐辛子を振り掛けることもなかったとか
わずかな物足りなさを残したりもせず。
皿から選び損ねて、たちまちなくなったちくわのてんぷらが
この寂しい気分をそっと包み込むおかわりにふさわしい、
世界を歩いて探しても今の私の心を慰めるのはちくわ。
そんな物悲しい思いを抱くこともなく
最初にただ一つ、最愛のこだわりを選ぶよりも。
ちなみに今日はかぼちゃの気分だが。
これはうどんよりもいわば具がゴロゴロ大きめの
かぼちゃと味噌の甘みのある優しい味をふうふうする
ほうとうが今は何よりも……
長く冷たく人恋しい夜、こんな甘美な話を
愛する人といつまでも続けることができるというのならば
寒い日もなかなか悪くはなく
人は明日が寒いとわかっていても少し笑顔になれるのだと
そんな気がする。
気のせいかもしれない。
寒いし。
もう少し近づいたほうがいいかな?
うむ……
太陽は傾き、ありがたい日差しの恩恵はひととき薄れて
私たちは、厳格なる教師に似た自然の与える試練にいま向き合おうとしている。
逃れることはできない。
年末年始にでもハワイ旅行に行こうというのではない限り。
それもめんどうくさいし……
向こうには、ちょっと立ち寄るコンビニだとか
品揃えの良い惣菜を奥お気に入りのスーパーなんてないだろう。
コンビニの色鮮やかな雑誌の棚、
豊穣の喜びを感じさせるレジ横の商品たちが目に入るときの
フ……
とか
ムムム……
とか
できないだろう。
私の弟は
はたしてどちらの雑誌の水着を選ぶのだろう、
思いたゆたうその瞬間の自由を私は捨てたくはない。
家族のことを思う喜び。
笑顔も。
少し眠そうな顔も。
あわてる顔も。
いつもくり返し見つめて
思い返して
忘れたくないから。
旅をするまでもなくオマエはここにいるのだし
まあ寒くてもなんとかなるだろう。
お前は宇宙は好きか?
あの広大で、どこまでも限りなく広がる
光さえも空しい巨大な世界が
全ての力を持って私たちの町に冬を届けようとする今。
いやまあ……太陽と地球の関係だから全てではないけれど
話は大きいほうが面白いし
特に今は責任のある話というわけではない。
こたつだし。
二人だから。
私たちの手が届かない天体たちが
寒さを運ぶのならば
人は考えられるあらゆる手段をもってぬくもりを数え切れないほどに求め
ある程度はその場の気分次第で適当に選びながら
ちょっと冬が来たくらいで負けずに
できるだけ立ち向かっていくのが
まあいいんじゃないかなあ。
そんな話で少しだけ前向きになりつつ
楽しんでいられたらいいと思う。
少しくらいお菓子の袋が散らばり
カップラーメンの汁が飛んだとしても
人が冬を生きるのに重要な胸の中のぬくもりは
そういうこととは関係ない
といいな……
きっとオマエが同じ気持ちでいてくれる瞬間も
長く寒いときに立ち向かうこれから
何度も訪れることだろう。
二人の思いが甘く重なり合う。
それを私も楽しみにしているよ。