亞里亞BDSS

『今年の場合と亞里亞の場合』
「大変です兄や様! 亞里亞様が勝手にお酒を持ち出して、飲んでしまいました!」
「くすんくすん……お誕生日なんだもの……お酒でお祝いしたかったの……」
 亞里亞ー!? 気分が悪くない!? ん? 平気みたいだな?
「兄や様、よく考えたら亞里亞様はご家族と離れてお一人で、当家のメイドたちには勤務先にお酒を持ち込むようなものなどおりません。これはきっとアルコールの入っていないシャンメリーか何かですわ。亞里亞様もお変わりない様子ですから」
 じいやさんが試しにコップに汲んで飲んでみたところ、そのまま赤い顔をして眠り込んでしまった。誰かー! 別のメイドさんが数人あらわれて連れて行ってくれたよ。じいやさんお酒に弱い設定なんだっけ……まあいいや。いやよくないけど、一応じいやさんは成人なので……あれ? 成人だよね? 設定……とにかくメイドさんたちはよろしくお願いします。
「本物のお酒だったんじゃないか! なんで亞里亞平気なの?」
「うえーん……兄やが怖い顔をするの……」
「ごめん!? 怖くないよ! 心配しているだけだよ!」
 酔って泣き上戸になっているのか亞里亞はもともとの性格だったような。
「お誕生日のお祝いは年に似合ったものを積み重ねていくのがいいね。じいやさんが倒れちゃうからね」
「うん……じいや、ばいばい……これからは兄やと二人なのね」
 朗らかな顔で旅立ちに出た船の上みたいに、じいやさんの行ってしまったほうへハンカチを振っている。いやそんな別れじゃないから。
「明日になれば元気になって帰ってくるよ」
「兄やと二人だけじゃないの……」
泣き上戸かもともとなのか。
「それで兄や、お誕生日のお祝いは何がありますか?」
「えっ今言うの? パーティーのときじゃなくて?」
 ちなみに晩ごはんに妹たちを呼んでパーティーの予定なので、じいやさんがそれまでに復活してほしいものだなあ。
「お誕生日は年に似合ったお祝いがあるって言ってたの。他の人は兄やとどんなお誕生日を過ごすの?」
「ああ、普通の人はどういうお祝いをしているかみたいな? そうだなあ……たとえば生誕祭がツィッターでトレンド入りしたりとか……ふーってしたらみんながサイリウムをしまってろうそくを消したみたいにするとかかなあ……でいいんだっけ?」
 僕が何万人いるという話になっているんだろう。でも、そんな誕生日を迎えられる人もなかなかいないだろうからぜんぜん普通の例じゃないな?
「兄チャマがどんなお誕生日を用意しているか、四葉も知りたい! チェキチェキ」
 壁にかけられた亞里亞肖像画がガタガタ動いて、どかした横にできた通路から、四葉があらわれた。なんでだよ。
「大きなおうちには昔からキンキュウの脱出用の抜け道があると決まっているデス」
 前髪のくもの巣を払いながら説明してくれる。それってお城とかじゃないかなあ。王様のお城とか……じゃあ亞里亞もいいのかな……よくわからなくなってきたぞ。
四葉はね、亞里亞ちゃんにクラッカーでお祝いしてあげるつもりなの!」
 お誕生日っぽくていいね。
「おめでとー! パーンパーン!」
 いや今じゃなくて!
「おめでとう! クラッカー、知ってるの! だれかお祝いなのね?」
 亞里亞が跳ねて喜んでいるみたいだからいいのか? 自分がお祝いされていることはよくわかっていないみたいだけど。
亞里亞がお祝いしてあげたいのは兄やだから、兄やに何かいいことがあった?」
 といっても亞里亞がかわいいということでいつもクラッカーを鳴らしていたらうるさいからなあ。
「お誕生日プレゼントは何がいいデスか? やっぱり探偵なりきりセットかなあ」
「探偵ね。悪い人を捕まえるりっぱな人です」
「そうそう。秘密の通路を通って忍び込む悪者を待ち構えて」
 四葉が捕まるっていう話なの? 亞里亞のほしい誕生日プレゼントは気になるけど、四葉が話を聞きだせそうにないのでちょっと通路を覗いてみた。いつからできていたんだこんなもの。大きなお城の緊急用の抜け道なら最初からあったということに?
 あっ鈴凛が出てきた。
「やっぱり鈴凛か千影だという気がしたんだ」
「えーっいきなりどういうこと!?」
「……そうか……私も……兄君が私のことを思ってくれると信じていたよ……」
 なぜか姿もないのに後ろから声が聞こえたみたいだけど、ギャグSSだからよくあることだよ。公式の展開がなくて二次創作中心の妄想の結果こうなったのであって、公式のほうがもっととんでもないこととか、ほんのちょっとくらいしか覚えていないよ。ほんのちょっとでも相当な気がするよ。
「うう……よくわからないけどいきなりアニキに怒られた……正面から出入りするとじいやさんの相手がめんどくさいから抜け道ばっかり使って遊びに来てごめんなさい」
「抜け道最初からあったのか」
 じいやさん……とりあえず今はゆっくり休んで早く元気になってください。こんな細かい話は気にしなくていいですからね。
「面倒くさい? うん、じいやは面倒くさいのね」
 亞里亞が火種を抱え込みつつあるけれどとりあえず僕がなんとかしようとは努力するので早く元気に……苦労させてしまってばかりですが……
「今年のプレゼントのために亞里亞ちゃんの寸法を計測に来たの。はい、背筋を伸ばしてー。腕を横に広げてー」
「服をあげるの?」
 って、今から間に合うのか?
「もちろん亞里亞ちゃんが喜ぶものといったら、会いたいときにすぐにアニキに会いに行くための空を飛ぶ装置よ!」
「わーい、すぐ会いに行きます」
 亞里亞が飛んでやってくる……
「あっ、兄やを帰さなかったらいつでも会えますね? 鈴凛ちゃん、お誕生日にお願いします」
「はいはい。なんとかするわ」
 するなよ。できないよ。僕だってできたらそうしたいよ。だったらすればいいんじゃない? よし! もう家に帰らない! ……いや家には19人の姉妹が待っているので……あれ、これ何のSS?
「いったい鈴凛はどうするつもりなの。やっぱりメカ兄やを作る?」
「うーん、逆にメカ亞里亞ちゃんを作ってここに替え玉としておいておくというのも」
「それはいいアイデアだ。じゃなくて、ダメだよ」
「アニキにはメカ亞里亞ちゃんとメカ鈴凛ですってことにしておけば大丈夫よ」
 さりげなく自分も来る気だ。あと本人の前で言っちゃった。
鈴凛ちゃん、四葉も!」
「うんメカ四葉ちゃんね。本体に忠実に作るとしたら、たまに自爆するようにすると良さそうね」
 自分はメカ鈴凛をおしとやかに作ろうとしたくせに。四葉の本体に忠実だと、みたいな話は……ええと……四葉はそこがかわいいと思うよ!
「お誕生日には、兄やはいつもなんでもお願いを聞いてくれるカードをくれるの。それでお誕生日にはお泊りをしてもらうんです」
「もらってすぐ使っちゃうんだ。でも、なんでもお願いを聞いてくれるカードで同じカードをあと五枚くださいみたいなことで増やし続けたらいいのにね」
 鈴凛になんでもお願いカードをプレゼントをするときは制限をつけることにしよう。
「兄チャマがずっとお泊りしてくれるようにお願いしたらいいのでは?」
 四葉にプレゼントするときは……四葉はどんな制限をつけてもなんだか無茶を言いそうだから別のプレゼントを考えておこう。
「あれっ! お兄ちゃまがいる? ふえーん、花穂また道に迷っちゃったみたい」
「花穂ちゃんは相変わらずデスねー。今日は四葉がついていてあげるから大丈夫!」
 相変わらずで隠された抜け道に迷い込む日常?
「フフ……兄くんがまた……私を思い浮かべてくれたんだね……」
 姿がないのに声がするからきっと気のせいだよね。
「でも私は……花穂ちゃんには……別に何もしていないんだ……」
 なんだそうか。花穂いつも抜け道に迷い込むんだね。
「……私が術をかけたいのは兄くんだけ……」
 うん……まあ千影に信頼されているみたいだから何だかよくわからないけどがんばるよ!
「あ、花穂ちゃんようこそいらっしゃいました」
 亞里亞がスカートをつまんで丁寧に挨拶をする。花穂が慌てて同じようにスカートを上げて前かがみだからだいたい後ろから見えてしまっているね。そして僕の位置が大体後ろだね。鈴凛も隣にいるね。
「花穂ちゃんのお誕生日には、見せても大丈夫なかわいいパンツかな。じゃなくて、ついうっかりしても問題ないようなかわいいロングスカートかな」
「そうだなあ。花穂には普通に制限なしのお願いを聞くカードでもいいのは助かるなあ」
「なんで私はダメなの? まあ、そうだよね……ぜんぜんかわいくない妹だもんね……」
 あれ!? そういう意味では!?
「兄チャマは四葉にもきっとすてきなカードをくれるから、鈴凛ちゃんにも同じカードをあげるようにお願いしてあげる!」
 何ひとつ疑っていないピュアな心がまぶしい……
「それでかわりに四葉のために、兄チャマがずっと一緒にいてくれるようにお願いしてね!」
 ピュア……というか鈴凛にあげた意味は?
「いつもみんなと仲良くしてくださいってお願いするの!」
 ピュアだ!
「せっかくだったらアニキと二人がいいなあ……」
 四葉のお願いをもらっておいて!? でもまあ気持ちはちょっとわかるかもね!?
「よしわかった! これでもお兄ちゃんだからみんなに悲しい思いはさせないよ。ちゃんと誕生日には正真正銘何でもお願いを叶えるカードをあげるよ!」
「わーい兄チャマ、四葉とみんなで一緒にいようね!」
「あ、じゃあ開発中のメカの件で手伝ってほしい仕事が」
「それは別になんにもしなくても普通に聞くけど!?」
 まあ照れてしまうお年頃なんだね。よっぽど大変なお願いというわけではないよね……お兄ちゃんはいつでも妹を信じているよ! 愛しているよ! じゃあ大変なお願いでも別に問題ないな? 多少手加減してほしいけどね……
「花穂もお願い聞いてもらえるの?」
「お誕生日になったらね」
「うわあ! なんにしようかなあ……手をつないでデートは……恥ずかしいな!」
「兄くん……」
「わかったわかった。もちろん千影も僕の妹だよ! 千影の誕生日が楽しみだよ!」
「あの、兄や様」
「さすがにじいやさんは遠慮してください!?」
「え!? いえ、元気になったので……ご心配をおかけしました」
「あ、はい」
「それで亞里亞様は体調は大丈夫なのですか?」
「じいや! 兄やが今年もなんでもお願いを叶えてくれるの」
「まあ、よかったですね」
「なんでもいいの!」
「そうですか。何になさるのですか? 今年もお泊りしていただくのですか」
「それはね……みんなのお願いを聞かせてもらったから」
 あっ聞いていたんだ。うん……亞里亞も僕の妹だよ! 信じているよ!
「千影ちゃんは儀式がしたいっていうからね」
 僕が知らない間に千影が実体化してまた消えていたよ。それ参考にするの?
「なんだか難しい儀式で結ばれるんだそうです」
 千影のことも信じているからね!
亞里亞も今年は兄やと結婚しようと思います!」
「まあ! それはそれはおめでとうございます」
 じいやさんもにこやかに子供に話を合わせているんですよね? その気になればできそうな気配というのは二次創作のせいですよね?
「もともと亞里亞様のご家庭は国連からも一つの国として認められているので」
 公式からの情報が今までに発表された内容で限られているからといって隙を見てえらい設定を盛り込みはじめましたね。
「結婚年齢を引き下げる法律を今日中に作ってしまえば何も問題はないですね」
「じいやさんはそこまで権力者だったの!?」
「もろもろの権利があるのは亞里亞様ですが」
「あ、そうか。えー!? じゃあやりたい放題じゃないか!?」
「いえ、お母様がいらっしゃいますから」
「あ、そうか。亞里亞ママのやりたい放題ということですね。いいのかそれ」
「私から申し上げるのは何ですが兄や様もそれなりに……」
「そういうことになりますね!? ああ今回のSSも夢オチか。ひっぱってみたらいたいけど」
「兄や、亞里亞も伸ばしてみたいのー」
「だめだよ!」
「お願いカードを使います」
「こんなことで!?」
亞里亞には大事なことなんです」
「スキンシップは大事だよね……えーと、あんまり痛くしないでね。なんで物足りなさそうな顔?」
「これもお願いに含めていいですか?」
「うん……そういう遊びみたいな感じになってきたから、それなら仕方ない……いやだめだよ! 痛いのはだめです! 制限をつけてごめん……」
「じゃあがまんします」
「おとな!」
亞里亞は今日からまた一つ大人なんです」
「そうだね! ハッピーバースデー亞里亞! 今年もいろいろ大変だったりする楽しい記念日をありがとう」