氷柱

『冬の訪れ』
きのうは楽しんだ?
秋の収穫のお祭りを勘違いしたバカ騒ぎ。
でもこんなうるさいイベントでも
春風姉様や蛍ちゃんたちがはじめてくれなかったらできない思い出。
子供の頃にはハロウィンなんて
せいぜい真似事の仮装ごっこ
幼い子がその場限りでわーわーはしゃぐくらいしかできなかった私たちから見たら
こんなにぎやかなお祭りが毎年の思い出になる小さい子たちは
後から思い出せる出来事がひとつ余計に増えるなんて
……なんだか不公平な気がしないでもないけど。
お菓子ばかり食べ過ぎないで、寝る前は良く歯を磨いて
浮かれた気分を明日まで引きずらないで、日曜日もしっかり早起きすること、
普通の休日をだらだらせず大事に過ごすように注意して
うちの良い子たちはちゃんと約束したんだから
まあ、たまにはね。
頭がいい感じがまるでしない情けなくてくだらない景色も
私だってそれなりに参加してがまんして盛り上げてやったんだし
うれしかった思い出になるようだったらいいわね。
からしっかり常識を教えるべき大人たちの今日の役目としては
子供たちが眠ってからも少し浮かれていた夜をひきずった眠そうな目をしたりすることなく
ばっちり早起きして
いい感じに片づけを指導。
みんなもきちんとしたしっかりもののお姉さんになれるんだってところを
あくまでさりげなく当たり前っぽく見せてあげること。
大事よね。
ちゃんと毎日がんばっていれば
お気楽なチビたちもときどき感銘を受けることがあってもいいはず。
まあ期待通りにそううまくいかないかもしれないけど。
私たち年上がだらしないところを見せるわけには行かないの。
わかった?
ちゃーんと覚悟をしていたんだから
朝からかつてないほど寒さがこたえて
休日なんだからもう少し……
誘惑の声がささやいても聞いてなんかやらない。
ひりひりするようなつめたーい水で顔を洗って
誰より一番早く起きて
朝からニュースをチェックして世の中に広くアンテナを伸ばし
リビングが暖まる短い時間をぶるぶる震えながら
ちょくちょく部屋のタンスをかきまわしながら過ごしたんだから
同じ部屋の蛍ちゃんがそのへんに重ねておいたセクシー吸血鬼のぎざぎざマントを
一時しのぎにその場だけ羽織ってだけで
きのうのお祭り気分をまだ引きずっていると思われて
まわりじゅうが揃ってこんなまじめな子をかわいい扱いとか
ありえない……
がんばって起きたのよ!
もう。
世の中は誤解と偏見でいっぱいね。
ああおそろしい。
なんだか知らないうちにずいぶん朝の冷え込みの厳しさが増している気がする。
世の中はもう11月。
今年もあとふたつきとなった話題を聞くと
それは寒くなるって気もするわ。
今月中に試験勉強の追い込みが始まって
期末試験を少しでもいい成績で乗り越えようとしている時期には
今日のがんばりを来年につなげて行こうとかそんな気分が強くなっているのかしらね。
吹き過ぎる風も吐く息も白くなっていく。
意味のない仮装をのどかだなあって見ていられたのも昨日までってわけね。
これからまたみんなのお祭り好きの血が騒いでしまったら
クリスマスに向けて、私一人がまたうんざりさせられるんだろうけど
寒くて凍えて身も心も縮こまりがちな時期
暖かい灯がともる明るい時間が来るなら
まあ多少は寛大な気持ちでいてあげてもいいかもね。
心細くて震えている子のそばに駆けつけて
そっと寄り添っていてあげるだけの
そんなことが私にはとてもできないから
服を着なさい、厚着しなさいって口うるさく言うの。
ちょっとがっかりした小さい子たちに
春風姉様や蛍ちゃんや
あと下僕がたまに
どうでもいい気晴らしくらいの遊びの相手になってくれるんでしょう。
たまにはいいわよ。
はあ……
私一人が不機嫌な顔でいればいいわ。
同情や親切や
あとわけのわからない変な行動はいらないから
放っておいて。
私のことは気にしない。
下僕はいつも私の言いなり。
放っておいてと命令すれば、
寒い季節だろうとなんだろうとちゃんと一人にしてくれるはずだわ。
いいわね。