『ヒューリスティクス』
問題が発生した場合には
人間が取れる行動は二つあります。
すなわち
解決するか
解決しないか。
どちらか。
それはつまり
自分の前にある皿にニンジンが入っているとして
手をつけずに戻してもかまわない。
おなかがいっぱいであったり
体調が良くなかったりすると
これが最も最適な解である──
ときもある。
そうでないときもある。
では、たとえばもったいないから残したくないとか
栄養バランスを考えた献立だとか
日ごろから好き嫌いが多いので
氷柱姉が許さないとか。
いくらなんでも
許さないということはないだろうけれど。
普段から氷柱姉が
夕凪姉の食べ方に問題意識を感じているのであれば。
ちなみに夕凪姉は例えです。
今日そういうことがあったわけではないので
誰でもいいです。
ではなぜこういう話をしているのか?
今日は抽象化について考えていて
たとえば私の目の前に
油が多いかなと考えられるとんかつがあるときなどや
キミの前に……
ええと……キミの前に……
つみき……
いや……
でんしゃ……
でもなくて……
おそらく姉妹の多い家族で兄としての立場を優先するとき
好き嫌いを言うのは難しいのであろうとは推測できるので……
とはいっても
私の分のとんかつを
残すともったいなくてかわりにどしどし食べてもらうなどしたら
それはそれでちょっと
はたしてどうであろうかと
心配になる可能性があるため
私がこれからお願いしたいというわけではありません。
嫌いなものを食べてもらえたら助かると頼りに行く機会が
今後もまず考えられないということになりますね。
……
熱い食事を吹いて冷ますのが有効であると考えて
実行に移す日も
あるかもしれません……
世の中は何が起こるかわからないので
自分で冷ますよりも
人に頼るべきときが?
あるでしょうか?
人間は解決が難しい問題があると判断を迫られる。
コンピューターであれば
不可能であると判断された問題は
人間の入力を待って実行が中止されます。
とんかつを残したら
明日のお弁当のサンドイッチに挟もう
という思考が
そもそも最初から外部への出力が可能な形で存在しないかもしれない。
コンピューターには兄はいないし
旧型の機械をそう呼ぶことがあっても
困ったときに助けてもらえないかもしれない。
特に困っていないときに
理由もなく同じ部屋にいたり
なるべく隣へ近づきたいということがないかもしれない。
そういう機能を設定されて作られたのであれば
起こりうることではあるのだけれど
その場合でも
開発者が、理由も何もなくそのような命令をするのだろうか?
どうしても疑問を感じてしまう。
だからたぶんコンピューターには兄はいないといえるし
私には兄がいるといえる。
こうして──
あまり形がまとまっていない思考をアウトプットして
聞いてもらうという
何の必要も感じられない行為を
喜んで行っているのだから。
夕凪姉の好き嫌いのことばかりではなく──
とはいえ、キッチンで小さい子が苦手な食材を見かけたときに
これは──
これは大変な事態だ──
と、一瞬停止することはよくありますが。
この場合、難しい問題と向き合うのは私ではなくて春風姉や蛍姉だから
なぜ私の行動に影響が出るのかはわからない。
解決を望む疑問の一つです。
そのことばかりではなくて、たとえば今日のように
暖かいともくもりがちともいえない日に
ユキが外出を希望した場合
どれくらいの気温と湿度と風向きと
予想される日没の時刻から安全な帰宅時間はいつなのかとか
特にデータを集めるでもなく判断している海晴姉や氷柱姉が
何を頼りにしていつも成功しているのかという疑問や
週間予報で来週の天気に雨があるとき
まだまだ先のことだから変わるかもしれないし大丈夫!
と考える子と
やっぱり予報だからしかたないと
早めにあきらめる子と、同じ天気をいつも経験してきたはずなのに
なぜ考え方に違いがあるのか
特に、本来予報をして最も信頼性のある予報を提供していると
胸を張って宣言しているはずの海晴姉本人が
週間予報だもん
気にしない!
いちばん誰よりも柔軟に予報を解釈して
柔軟とは──
予報とは──
いったいなんであろうか?
なぜか私にとって解決したい命題に変わるというのはなぜなのか。
情報を集めて判断する点ではコンピューターと変わらない。
すべてのコンピューターには
愛すべき人格があると言えるし
興味深い観察対象であることは確かなのだけれど
人間の行動の範囲は
いつも私に難しい疑問を突きつけるようであり
ひとつひとつの具体例にそれぞれ対応するよりも
抽象的に全体をまとめる解決を提示できれば
話は簡単なのに
決してそのような回答は存在していないように思えて
行き止まりにぶつかり
迷い道をたどり
まあとにかく。
私はキミに話を聞いてもらうのが好きです。
おそらく迷うことも、答えが出そうにない難しい疑問と向き合うことも
一人でも楽しいし
キミといたくなるほど楽しい。
この楽しさをわかってほしい、伝えたい──
伝わったような実感があまりない。
こんなに良いことなのに。
などなど。
私は今日もキミに
自由にさせてもらっている。
甘えさせてもらえるのは
妹だからであろうか?
家族だから?
それとも兄とは
心が広くなければなかなかやっていけないのか……
疑問は尽きない。
まだ話している時間はありますか?
私は他の都合を少し後回しにしてでも
話を優先させたいと考えるときもあります。