立夏

『ささやかなお祭り』
いっぱい楽しもう!
リカはまだぴちぴちしていて若いので
秋のお月見に似合いそうな浴衣も短めでけっこうです。
かわいくて
元気に見えるようにネ。
おとなっぽいオニーチャンにもきらきらパワーを分けてあげられる
じゅうさんさいになりますように。
こうこうせいって……
だいぶ年上。
まだ遠いから
背中からその姿を探して
じーっと見つめて
今日はずいぶん遊びもお勉強もして
お疲れなのだろうか?
いま、オニーチャンは
いそがしいのだ!
ひまなのだ!
遊んでもらえそうなら
抱きついていいのだ!
たまーに
だめなときもあるなんて
相手が小さい子なら考えなくていいのになー。
大人になるって大変だ!
リカが追いかけても逃げてしまうなんて。
おふろだからだめ!
高校生だとそうなっちゃう。
しかたない。
出てくるところを待ち伏せでいいや。
だいじょうぶ、リカがパワーをあげるよ、って
元気にしたいんだぁ。
今すぐ充電完了みたいに飛び上がってしまうくらい
大声で笑っていてほしいんだ。
リカならそうしてあげられる!
……かどうかは
わからない!
ので、やれるだけのことをやるのです。
そのためには
ぜったいミニゆかただよー!
でもホタおねーちゃんは
もう日が暮れるとさむくなるからだめって言うんだよー!
氷柱ちゃんは
天気予報くらい見なさい!
くもり!
自分の健康は
自分で守る!
ううーん
だって、まもってばっかりじゃあ
お兄ちゃん忙しくて逃げちゃうじゃない。
大人に成長したいい女なら自分で捕まえに行くものでしょ?
せくしーな
スパイダーのよう。
だからお月見だーってなって
やったー
楽しいイベント!
お祭り!
明るいのがいいなー
テンション上がるやつがいいな!
とおねだりしたのに。
お月見はそういうイベントじゃないんだって。
しゅーん。
まあ、そりゃそうだ。
輪になってすすきをまんなかにして踊ったりしないもんな。
しょうがないなー、今日はしっとり落ち着いたお祭りに合わせてみるか。
なにしろ秋のお祭り。
オニーチャン、知ってた!?
広大な宇宙を愛する霙おねーちゃんによれば
なんまんねんか
なんおくねんかしたらそのうち
月も宇宙の塵になって、なくなってしまうんだって!
ぶおー!
そりゃ今のうちに見ておかなくちゃ!
さんざん見ておかなくちゃ!
お月見を逃してる場合じゃないよー。
今夜の月は大事だよ?
こんなふうにみんなでそろって中秋の名月
あとなんまんねんあるかどうかわからないじゃない!
お昼からちょっとくもってるけど
これも風情だっていうし
風情があるね!
たまやー!
とわおわお吠えたくなるのも全部抑えて
にこにこお月様の下でまんまるまるまる。
お団子食べ過ぎても
見ているのは家族とお月様だけ。
ちょっとくらい丸くなっても笑ってる。
明るい満月の下だもの。
今夜はきれいな月の夜。
ちょっと冷たい風が
染まりかけた木の葉を揺らす夜には
わいわい無意味なほど声を出してはしゃぐのも似合わないらしいので
気のきく女の子は、この夜を楽しむために少し控えめ。
大変なことにめったに見られない淑女らしいじゅうさんさいの子。
ウサギに混じって跳ねるのは卒業した、新しいお月見リカ。
ここだけだよー?
でもこれだと
オニーチャンといっしょに楽しみたい気持ちが
全部伝わっていないとやっぱり寂しいので
落ち着きながらも
となりにすわってえがお
大きな声がなくても届くようにした
いつもより全開のスマイルにも……
ちゃんと気がついてほしい。
がまんできなくなって
だけどしがみつくのはがまんしても
手をとってぎゅっと強く握るのだけは抑えられない。
静かできれいな
ほんのちょっと冷たい秋の夜。
いつもリカは、大好きな人に元気でいてほしくて笑ってる。
きっと寂しいのがイヤでいつも離れたくないから
あったかい手をつないだままにしてほしい。
小さいわんこがかわいくても、尻尾を振って止められないみたいに
ずっと一緒にいてほしいおねだりを
言葉にしない時だって、いつも続けている子がすぐそばにいるの。
わかってください。
そんな静かな夜のおはなしでした!