小雨

『夏の一日』
今日も、朝から急に温度が上がり始めて
ラジオ体操の後のさわやかな時間も一転。
しんどそうに汗を流しているみんなを見ていると
小雨にもできることはないか、
何かできることはないかって探しているのに。
水分を取りやすい飲みやすい飲み物のくふう。
暑くてだるくって食欲がなくてもしっかり栄養が取れるメニュー。
の、相談を聞いたり。
聞くだけなので……
意見は出していないんです……
お花に水をあげているうちに
家族のみんなは大丈夫かな、と心配して見ていたら
さっと夕立が訪れて、一日の終わり。
みんな、お疲れ様でした。
暑い日を元気に過ごしているみんなに
今日も小雨は何もできなかったな。
机の明かりをともした下で
夏休みの宿題の日記を開いて、がっかりしているお休み前。
ぼんやりした一日を、またひとつ重ねてしまいました。
お兄ちゃんは、どんな夏休みの日を過ごしましたか?
夏場は汗で増えるかわり、すぐ乾く洗濯物を一日に何度も干している小雨の耳には
ときどき、大きな声がいっぱいに届いて
たぶん少し退屈している子たちのところへ
お兄ちゃんが来てくれたのかなあって考えていました。
そのあと、とつぜん泣き声が響いたら
何があったんだろう!? って驚いたものだけど。
でも、お兄ちゃんがいてくれたら安心してお任せできるんだもの。
どちらかというと、びっくりしたりあわてたりしすぎて
洗濯物を落としてどろどろにしてしまう小雨のほうが心配ですよね。
大きくなって、しっかりしている小雨には今日も会えないまま。
おうちの家事のお手伝いがまだあんまりできないのは
まだ小学生だから、そんなものなんだって、お姉ちゃんたちは言ってくれるの。
泣いている小さい子のところへすぐに行きたくても
びっくりして足が動かないのは
他の人より優しい性格だから仕方がないんだって。
だからそんなにすぐに小雨の良さは発揮できないかもしれないけど、焦ることないって。
白紙の日記の上に目を落として。
書くことを探しながら、思い返しています。
本当はいろいろなことがあった一日。
ずっと家のどこかで声が聞こえて
笑っている声が聞こえたら小雨もうれしくなって
何かいいことがあったのかな?
誰だろう?
近くにいる観月ちゃんに話してみたら
はて、ついさきほどみんなは庭のほうに遊びに出たはずで
家の中に誰か残っていたであろうか?
なんだって。
古くて髪がボサボサのお人形さんや
空気の抜けたボールや
車輪の取れかけたミニカーや
壊れかけている遊び道具を運び込んだ、ないしょの部屋。
探検隊たちが探し出した荷物たちのところから聞こえるから
たぶん、探検隊の誰かがこっそり遊んでいるの。
秘密だってことも忘れて、楽しそうな声で。
それが誰なのかは小雨にも観月ちゃんにもわからなかったけれど
楽しそうだったからいいかな?
でも、古くなったおもちゃのことを考えると
話を聞いていると、ぼろぼろなんだなあって思ったから。
ささやかなお手入れをするくらいなら、不器用な小雨にもできるのでは?
うっかり手がすべってとどめをさしたりは……
大丈夫、気をつけるから小雨はもうしないと思います。
観月ちゃんの予定の都合で誘ってもらえる、いつかそのうちねって約束。
そんなお話ができた時間は、こんな小雨にもたまに訪れるうれしい思い出。
さわやかな涼しさを運んで通り過ぎていく夕立のように不意に、そんなこともあるの。
今日はいつもよりもいい日。
洗濯物を泥にしてしまうことがあっても
なかなか力が足りなくて、日記帳に涙のあとが小さく残る思い出が多くても。
小雨は今日もこの家族に支えられて過ごしています。
力強く、とはなかなか言えない小雨の毎日。
いつも元気に明るくではないけれど
でもどうにか
暑い日は終わり、今日も涼しい夜に小さくどこかから優しく虫の鳴き声。
小雨と一緒で、涼しくなったから少し安心して出てきたのでしょうか?
でも、夜になっても一人つまらないことばかり考えている小雨とはだいぶ違うけど
家族みんなが、こんな暑い日に元気で過ごせてよかったと
安心しているところが同じだったら面白いな、って思いました。
お兄ちゃんもそんなことを考えているのかな……
まだほんのりとかすかに熱が残っている家の中で
寝苦しい思いをしないで、みんなが気持ちよく眠ってくれて
どうか、また暑い気温が続く明日も小雨に元気をくれるように
そんな願いをしていたら、やっぱりまた今夜はなかなか埋まらない日記帳。
他の宿題はちゃんと予定通りに進んでいるのに、不思議ですね。