立夏

『おとな』
リカはちゅうがく一年生。
おねーちゃんたちから見たら
うまれたて!
ベイビー!
そう?
まだまだぜんぜんこどもで
ちーっとも進歩のない
頼りなさ。
ななじょ
リカ!
だけれども。
シンデレラに向かって一歩一歩
階段を上がっていくの。
ときどきは、一段飛ばしで階段を駆け上がる。
またあるときは
段差に勢いよく足をぶっつけて
一休みする
おんなのこ。
じんじんする足を抱えていたって
ガラスのくつにひびが入っても
じっとしていられないから
12時までに間に合うように
お星様が笑っている夜空を見ながら
歌ったり
寝転んだり
妙なことを思いついたり
好きな人に甘えたくなったり
ここに王子様がもういてくれたら
絶対楽しいって言ってもらえるのになあと思っている
魔法をかけてもらったヒロインの
まもなく訪れる
輝く未来の夢は。
シンデレラもいいけど
魔法なんてもう
こどもっぽいし。
少し前だったら
魔女になれば
すごい!
なんでもできる!
と、思っていたけど
そろそろちゃんと
将来を見据える時期だし。
なんでも全部が叶うより
本当にいちばんの願いだけ
ひとつだけでいいって
そう思えるようになったら
リカも大人だもん。
だからもう少し大きくなって
ぐんと背も伸びてからの
たったひとつの大事な夢は
そうだなー。
知りたい秘密を何もかも暴き出す
女スパイかな?
オニーチャンがリカを好きなこと
もう、どんなに恥ずかしくても
隠したりなんてできないように。
それとも、
あと一年くらいか
せめて二年で
いつでもお嫁に行ける
おねーちゃんたちと同じ背たけになるまでには
リカも家事一般を修めた
落ち着いた女になろうかな。
ごしゅみは?
おちゃと
おはなと
おことと
おどりを
しょうしょう!
あ、おどりはふだんの
はなうたを歌いだして
勝手に体が動いてるやつじゃなくて
ちんとんしゃん、
しゃららん

あれ。
でもどれもあんまり
かわいい新婚さんのイメージじゃない気がするな?
お茶は、ごはんのとき?
お花というか
ガーデニングかな。
家庭菜園でもいいし
小さな花を
二人で育ててみよう!
花壇の全部がきれいに咲かせなくたって
力を合わせて
祈りを込めて
お花を育てるのが
世界で一番へたかもしれないリカだって
どの子もみんな愛してる、って
種をまくんだよ。
楽しみだねー。
って、それじゃあ
ガーデニングもお茶のしたくも得意な小雨ちゃんは
これからお嫁にいけちゃうジャン。
えらいことに気づいちゃった!
妹のしあわせ
いつも応援するからね!
今日は、右手と左手で
オニーチャンをわけちゃおう。
リカから見たらかわいくてしょうがない
ちっちゃな小雨ちゃんが
もうおよめいりできそうなんだから
リカだってもらってもらえないはずないよ!
やさしくしてね。
だけど今日は
お風呂あがりに上機嫌で
小さい子たちのはだかに混じって踊ってたら
横で見てた氷柱ちゃんに
もう少し落ち着きが出ないと
いつまでたってもこどもだって
あきれられたの。
そうかもしれない
けど……
うれしくなったときに
自然に踊りだしたりしないリカなんて
想像できないよね!
落ち着きがあって
しずしず着物の裾を乱さないで
ごしゅみは?
たべることです、
なんて答えないリカ。
好きな人と
おいしいものいっぱい
おなかいっぱいでねっころがるまで
つめこむんです、
なんて言っても
お嫁にもらってくれる人は
こんなリカと同じ家にいたら
いつでも楽しいって
もう知ってる人だけなんだから
責任とってね。
よろしくね!
たったひとつの恋が叶う
理想のおとなになるまで
あと階段はどれくらい?
わからないけど。
シンデレラは
12時が来て魔法が解けたって
ぜんぜん気にしないで
王子様に向かって
とびかかります!
もしも、うっかりころんでばかりで
なかなかリカが進まなかったら
オニーチャンのほうからやってきたらいいよ!
リカがどんな大人になったらいいのか
氷柱ちゃんが決めることじゃないもん。
踊ってばかりで
こどもっぽく見えたって
きっともうすぐ大人になるんだもん。
そんなリカのこと
かわいいって
言ってほしいんだもん!
だめ?
どうかな?
いいよね?
いっつもうれしいときは
全部からだで表現するのが
本当にいい大人なんだってこと
ちゃんとみんなにわかるように
教えてあげようよ。
オニーチャンもすぐに飛んで来たらいいよ。
なんでもできて、かっこいいだけじゃなくて
いつも一緒に
楽しい時間を過ごしてくれる人が
いちばん大事で
大人になるために必要だって
二人でいたら、すぐわかっちゃうように
もっと近くでくっついていよう!
決めた!
もう離れたりしないよ。
これからもちゃーんと
かくごしておいてね。