『パラダイム』
昨日までと比べたら大きな気温の差がある
このような日は
少しだけ不安もありながら
夏場の暑さではないから大丈夫、と話し合いながら
ユキと手をつないで、日なたのほうへ。
小春日和という言葉もあるのだから
過ごしやすい気温は、春に例えられるので
おそらく体調を崩すほどの日差しにはならないと
まもなく今年の暦も残りあと二ヶ月となるもうこの時期には
信じてもいいのだけれど。
日陰に入ると少し冷える時期に
体を暖める天候を思うままに受け取る機会は
得がたいものだと知っていても。
ユキがまるで冒険に出るように
頬を赤くして
ほんの少し強いかもしれない日差しの下に
一緒に出て行きたい様子で
手を引くので。
あまり急な体温の上昇は避けたくても
この家にいたら
苦手を意識しながら
それでも、徐々に慣れていくべきなのかもしれない。
比較的体温の高い小さい子たちを
いずれ私が面倒を見る必要は
これから必ずあるのだし。
それに、おやつが並んだだけで
体温が上昇する可能性は
夕凪姉を見ていると
今後の私にも訪れないとは限らないのだし。
未知の場所に出て行くような表情で
昨日よりも少し日差しの強い窓際を目指して
おそらく、暑くなったら一枚脱ぐつもりで重ねているらしい薄い上着の
襟元をそわそわとかき寄せて
決意を秘めた瞳を輝かせているユキがいると
いずれ私も同じように
順当な計測によって得られる不安な予想を無視してまでも
思い切った行動をとる可能性も……
完全に無視できるほど小さいものだと決め付けることはできない。
この家に育っていると、
特にキミがやって来てからの日々は
事前に得られた情報からはまるで推測できない経験を
多く重ねている気がする。
ある人を見つめると
顔が熱くなるということ。
春風姉の言うとおり
どうやら、世界中でたった一人の相手しか
私に影響を及ぼすことはないという
その事態が本当にあるものとは
考えなかったので。
これまでは、強烈に気温の高い場所を避けるのが
安定した体調を維持する上で最優先の選択だったのに
今は、これから訪れる想定外の事態に
早いうちに慣れなくてはいけないと考えている。
このままではいずれ
自分から進んで
過剰に体温を上げる環境へ飛び出していこうとしているようで。
現在は
行動の基準に修正を迫られている気がする。
まもなく私の生活に
大きな変化を迎え入れようとして
準備を始めている、
そのための
挑戦であるような……
日光浴をしたくらいで、大げさな話のような気もしますが。
今日はいい天気で、暖かくなりました。
この時期は春のような気温になることは珍しくないので
特別におかしい天気だとは思いません。
しかし、麗姉が自分から進んで家事の手伝いを申し出たり、
なぜか氷柱姉までが当然のように
さりげなく三角巾を付けて進み出たりする状況を
海晴姉は、雪でも降るのではないかと
心配そうに雲の少ない秋空をまぶしそうに見上げているのは
人間の行動が天気に大きく影響を与える仮説は、まだはっきりしていないので
天気の急な変化が、人間の心境に微妙な動きを与えている可能性を考えると
やはり、ぽかぽかした日を過ごせたことがわずかに心を浮き立たせるのと同様に
充分にありえることで、
ありえないことに雪が降るのか、それとも逆にこの時期としては珍しい暖かさのせいなのか
いったい何が氷柱姉の不思議な行動につながっているのでしょうか。
今のところはまだ解明は難しいようです。
氷柱姉本人が主張するところによるとどうやら
ひとつ下に、家事の手伝いが苦手な立夏姉がいる分
その次の年齢の小雨が大きくなるまで
他のみんなよりも一年多く家の手伝いをしていたようなものなので
麗姉よりも戦力になると考えている、
そのような話でした。
しかし、私の観察からすれば
ひとつ年上の蛍姉がいることが
氷柱姉の家事能力に関係しているのではないか?
と、仮説を立てています。
きょうだいの人数がこんなに多い家族は他にあまりないので
推測の材料が少なく、
現時点での私が持ち合わせている情報では
氷柱姉の行動の動機と、今後の活動について
正確に予測できるとは思えない。
この際、私たちの家族を取り扱う新しい学問の領域を
一から考え出していくのも有効なのではないでしょうか。
もしも賛同してもらえるならば
これからキミの協力が得られると
私にとってとても心強い助けになります。
氷柱姉は、近くで観察しようとしても
それが苦手なようで、警戒していて
すぐに気付かれてしまいます。
キミの協力があれば、もしかすると……
新しい分野を切り開くことに興味はありませんか?