体育祭1

急に思いついたばかりで何をやっているんだって感じですが、今日の日付のうちには間に合わないと思うので、書いた分から先に。


・海晴
まるで空の上までがこの日を待っていたみたいに
さわやかに透き通った秋晴れで、まさに運動会日和。
もちろん、いくら天から見ている神様でも
この学校の体育祭だけを待っていたなんてことはあんまりないと思うし
私がいた頃は、何度か雨になって順延、
次の予定も雨になったら体育館で規模を縮小して行います、
なんて事態が訪れて、必死に祈ったこともあったから
そんなにお天気の特別扱いもされていないか。
やっぱり、晴れ女の立夏ちゃんが
ついに一年生となってキミたちの学校にやってきたからかな。
あの子が晴れてほしいって思う日は
高い降水確率もあてにならなくて、
お天気お姉さんになると決まったときには、まさかという不安が一瞬よぎったものだけど
本当に、テレビの前の皆様にお届けする予報が外れてしまうと
申し訳ないやら
立夏ちゃんのパワーに戦慄するやら。
練習中に危惧していた台風の接近だって、
校庭の使用にはほとんど影響ないくらいに抑えてしまったし
明るいパワーでいい天気を呼び寄せるばかりじゃなくて
その元気を今日は運動で発揮してくれたらいいけれど
まあ、張り切ることにかけては立夏ちゃんは心配いらないか。
みんなの活躍が待っている体育祭の日が晴れるのは、それだけでうれしいこと。
大変だった頃を思い出したら、
今日は私の後輩たちが一生懸命汗を流すんだな!
ますます胸の中でじーんと感慨が湧き上がる。
って、こんなことを言われたって、別に全然今の生徒たちには関係ないか。
晴れてよかったね、なんて
みんなにはただの始まり。
これから熱い戦いに挑む男の子や女の子たちだもの、
今さらのむかしなつかしい話なんてゆっくり聞いてもらえないだろうし。
あ、でもキミはお姉ちゃん思いだから
誰からも聞いてもらえない話を抱えて一人で寂しがっていたら、付き合ってくれちゃうかな。
だったら、私が伝えることは
実は、お天気のよさの話じゃなくて
こんなに晴れたお天気で、みんなが体育祭を迎えられたから
うれしいんだよって
ちゃんとはっきりしておかなきゃ。
いいお天気の中に飛び出して行って
今日、これから思いっきりがんばるんだって
期待にわくわくしているような後姿を見たら
すっきり晴れてくれてよかった、
みんなが胸を弾ませて駆け出していける日になりそうでよかった、
そう思います。
さすがに朝からトンカツは断念したという春風ちゃんと蛍ちゃんが気を使って
少し軽めにおなかに入れた、あわただしい朝食が済んで。
とはいえ、立夏ちゃんはこんなに運動する予定の日でもがっつりだったし
みんな、わりと緊張感ないな、と思ったら
なぜか喜んでしまった無責任なお姉ちゃんだけど
とにかく、言うことなしのお天気に
元気な一日の始まり。
みんな、がんばって!
海晴お姉ちゃんは少し懐かしがりながら
でも、たぶん熱くなりながら見守って
今日は満足した顔で帰ってくるはずのみんなを待っています。
悔いを残すことがないように
怪我には気をつけて
精一杯に、体育祭の日だからこその青春をを走り抜けてきてね。
いってらっしゃい!

・小雨
お兄ちゃん!
どうか、小さい子たちみんなを褒めてあげてくれますか?
あ、体育祭が始まったとたんに
いきなり関係のないお願いをして困らせてしまうと
小雨はあまりにも申し訳なくて、
まだ応援も何も大事なことをしていないのに消えてしまいそうで
みんなが手伝ってくれたお弁当だけ残して
小雨は恥ずかしくてどこにもいなくなってしまいそう……
何も急なお願いじゃないんです。
ついうれしくて、すぐ伝えないといけない気がして
真っ先に聞いてもらいたかったわがままな小雨の話。
できれば、あとで
体育祭が終わった後か
それとも、ちょっと時間が開いたお昼休みにだったら
一番いいのかな。
小さい子たちが慣れない手で詰めるのを手伝ってくれたお弁当を囲みながら。
今日は、入場行進のときからお兄ちゃんたちの姿を見つけるんだから
早く行こうよ、ってせかされて
焦るほど失敗が増える小雨だから、みんなもみかねたみたいで
手を貸してくれたんです。
開会式に間に合ってよかった。
小雨一人では、どんなに急いでもこんなに早くお支度が済んだとは思えないもの!
朝早く、お弁当の支度をしていたときには
あんまりゆっくりの自分の手際の悪さにあきれて
もしかしたらこのままでは、お昼までにだって間に合わなくて
お兄ちゃんたちがおなかをすかせてしまうんじゃないかと思うと
目の前が真っ暗になって、お弁当どころじゃなくなってしまうところだったんです。
みんなが、早くお兄ちゃんたちを見に行きたいって
すごくやる気を出してくれたから。
自分たちだってなんでも手伝う、と言ってくれるいい子たちだったから。
小雨はみんなの気持ちがうれしくて
涙でにじんで、手元が危なっかしくなって
我が家の小さい応援団では一番のお姉さんなのに、むしろ迷惑をかけてしまったかもしれないくらい。
麗ちゃんと星花ちゃんは最初の予定通りの分担でお弁当の手伝いをしていたけど
もともとのお仕事を終えてすぐ、あっちこっちで先頭に立って
手際よく進めていった朝の準備。
誰も事前に教えてもらっていなかったけど
開会式の選手宣誓ではヒカルお姉ちゃんが赤組の代表に立って
こんなすごい場面に、協力して急いでやってくることができたなんて。
とてもかっこよくて
まだ何も競技が始まっていないのに小雨ひとりだけ感動して泣いてしまって
でも麗ちゃんが気持ちをわかってくれているみたいにそっとハンカチを貸してくれました。
その後で、少し時間があったヒカルお姉ちゃんが来てくれて教えてくれたの。
陸上部の部長をしている白組の三年生が選手宣誓をする予定は小雨も昨日聞いていたんですけど
今、お相撲のほうが盛り上がっているでしょう?
100年ぶりの新入幕優勝をかけて
今日は、いよいよ横綱との決戦なんですって。
生徒たちは気になって早く帰ってしまうかもしれないから
開会式から盛り上げてもらうために
今日の体育祭で一番活躍が期待されているヒカルちゃんが
赤組の代表として、白組の三年生と
最後に決着をつけるリレーの
アンカーになって直接対決する相手同士が
正々堂々と戦うことを誓う儀式。
思い出したら感激して、また泣けてしまうのは
小雨はやっぱり泣き虫すぎるでしょうか?
麗ちゃんの使うハンカチがなくなってしまったけれど
今日は、一緒に見ようねって言ってくれたの。
小雨だけの力ではとても間に合わなかったことを思い出したら
お弁当の箱を見るたびにまた泣けてしまいそうで
応援する前から声が枯れてしまわないように
そろそろしゃんとしないといけない、とわかっています。
小雨は今日、目に焼き付けたい景色が
きっといっぱいあると思うから
いつまでも涙をためていないで
しっかり見ていなくちゃ。

・さくら
たいいくさいがはじまったら
さいしょからはなやか。
ぜんいんさんかでもりあがる
たまいれのため
きちんとこうしんをして
あつまってくるせいとたち。
たまいれって、しってるよ!
こさめおねえちゃんたちのしょうがっこうで、うんどうかい。
いちねんせいとにねんせいのおねえさんが
まだ、ちっちゃいのに
さくらよりおおきいけど
マリーおねえちゃんくらいでも
ちゃーんとならんでこうしんして
いちについて!
たかいかごをみあげて
たまをひろって、もみくちゃになって
わあわあごちゃごちゃで
こわそうだったの……
さくらがあんなおおぜいの
たまいれのひとのなかにはいったら
ぎゅうぎゅうおされて
つぶされそうなの!
そうしたら
ないてしまうよ……
たまいれは
おそろしいきょうぎ!
お兄ちゃん、
たまいれ、どうだった?
ものすごいひとがあつまって
げんきなおんがくがきこえたら
もう、どこからもおおごえがして
お兄ちゃんも、こわかった?
なかなかった?
だいじょうぶ?
さくらはおねえちゃんにしがみついて
おうえんどころじゃなかったの。
たいいくさいって
こんなにおおもりあがり。
たいへんなことがはじまったね。
お兄ちゃん!
さくらにあいにきてくれてよかった!
ぶじでいてね!
けがしないでね!
これから、いっとうしょうをとりたくて
がんばるの?
が、がんばって!
つぶれてなかないで!
さくらはこわがりでびくびくのこえだけど
お兄ちゃんがいっとうしょうをとって
げんきでかえってきてくれるように
おうえんしてまっているの!

・春風
だって、それはやっぱり
春風だっていいところを見せたい気持ちがあったんだもの。
がんばったね、
さすが僕の春風だね、って
好きな人に言ってもらいたかったんだもの。
練習してもどうにか人並みで
蛍ちゃんと励ましあって、せめて少しでも順位を伸ばせるように
一等なんて高望みはできなくたってできるだけがんばろう、
がんばったことだけは伝わるような競技をみんなに見てもらおう、
たとえ苦手だって
出場して、本気で競い合うことにこそ意義がある!
と、緊張で震える手をぎゅっと結んで出かけたのに
蛍ちゃんが玉入れで意外な注目を集めて
玉が落ちてもがっかりしている場合じゃないみたいに
落ち着いて得点を狙っていく姿は
白組みんなを励まして。
春風は、感心するのと
自分とを比べてしまったり。
蛍ちゃんばっかりいいところを見せて
ずるいです!
でも、
かっこいいです!
それは、活躍しないように、っていう約束じゃなかったもんね。
もしもだめでもがんばろう、だったもんね。
でもみんなが気がついてしまったの。
今日の蛍ちゃんは違う!
と。
放送の人も、劣勢に追い込まれた白組の
決してあきらめない天使を応援していましたよね。
春風は、
あんな誓いを交し合った自分が恥ずかしい!
だめだからなんて決め込んでしまって
だからきっと、玉入れも本気になれなかったんだ。
簡単にあきらめたばちが当たったんだわ……
そう、好きな人に向ける思いなら
何があってもあきらめない春風なんです!
あの人に見てもらうためなら
春風はどんなことだってできるはずだわ。
恋する乙女に、不可能なんてない!
がんばればできるんだってこと
春風も見てもらわなくちゃ!
次の競技の主役になるんです!
なのに、
勢いよく走り出した途端に
スプーンから飛び出して、見えないところに消えていくピンポン玉。
あんまり気合を入れたらいけない競技だったのでしょうか……
でも負けない!
気を取り直して。
気にして引きずっていたら、いつまでも何もできないですもの。
王子様、春風の出場ずる競技は
あとは午後の障害物競走と、
それから仮装行列は競技でいいのかしら?
もしも、いつもの春風より少しだけでもいい成績を出せたら
その時こそ王子様は……
ううん、必ず活躍します!
春風はがんばるから
どうか、運動があんまり得意じゃなくても
春風のことを見ていてください。
王子様が同じグラウンドにいるのだから
春風はいつでも、必ず期待に応えます。
あきらめない!
がんばります!

・真璃
春風お姉ちゃまが、炎を背負って戻って行ったそのあと。
もちろん体育祭はそれでこそ。
その意気込みだから盛り上がるのよね。
と、いうマリーの意見と
普段そんなに運動しないし
もしあんまり落ち込んでしまうようだったら、
なんて言って慰めるべきか
今のうちから考えておいたほうが……
という消極的な意見と
心配そうな話し合いは続いて。
それはまあ、あんまり望みがあるとは言い切れないけれど
でも、信じないのもよくないと思うな。
家族なんだもの。
春風お姉ちゃまは、すごいやる気だもの!
やる気を出したときの春風お姉ちゃまがどれだけ予想が付かないか
そして、決して止められないこと
マリーたちは知っているもの!
蛍お姉ちゃまも後から来て、
大変な人に火をつけてしまったらしいと聞いて、あわあわ動揺していたけど
けど、そういう話なら
蛍もがんばっちゃおう。
みんなでいい成績を残して、一番思い出に残る体育祭にして
蛍がみんなよりひとつでもがんばって
ほくほくいい気持ちでおうちに帰るんだと
蛍お姉ちゃままで心配になってきたけど……
でも、やる気になっているなら
信じてあげなきゃ。
だってマリーとお姉ちゃまたちは家族なの。
何よりも強い絆で
運命的に結ばれている。
そこにはフェルゼンもいて
マリーたちといつもいっしょ。
おりしも目の前で繰り広げられる次の競技は二人三脚。
一人きりで走る競技より、きっと孤独じゃない。
足並みを合わせてぴったり走るなんてなかなかできないかもしれないけれど
同じ目標を目指して進むなら、絶対できるはず。
ここでマリーたちにできるのは
春風お姉ちゃまと蛍お姉ちゃまの活躍を信じて応援することだけだわ!
ちょっとだけ、あんな面白そうな競技だったら
グラウンドの端っこのほうでフェルゼンにお願いして真似してみようかな、
と思ったいたずらごころ
とりあえず後で別の日に約束ね、ということにして
今日は応援に専念するわ!
がんばってね、春風お姉ちゃま、蛍お姉ちゃま。
がんばってね、フェルゼン!
それに、マリーの家族たちみんな!
次の競技は、大勢が参加する綱引き。
団体競技だと得点が多いし
応援してる人たちだって燃え上がるのが体育祭。
だから、いいわよね。
マリーたちも盛り上がって
自分たちで参加するみたいに応援するのも。
こういうのがきっと、体育祭の楽しさなのよ!