霙

『不器用』
はたして──
そんなに魅力的なのだろうか？
学園祭の準備と言うのは。
私が言ってはいけない気もするが
なにしろ学生のすることで
見回しても学校中のあちこちで失敗ばかり目に付いて
前向きに、大丈夫と励ましあう美しい姿を見ていても
実際どうだろうか
学園祭に間に合うのか
むしろ、本当に今年は学園祭が開催できるのかさえ危ぶまれるほど。
まあ、間に合わなかったらそれはそれで
果てしなく長い宇宙の営みの中では
ひとつの学校の学園祭が少々反省点もある思い出となって
生徒たちの胸に残ることも、無限の宇宙に散らばる星の数ほどよくあるのだから
何も困ることはないだろう。
こんな準備活動でありながら
我が家の小さい子たちが、日曜日を利用して見学を希望しているのは
いったいなぜなのだろう。
もしもおばけ屋敷の噂の通りに
たった一人の長男が所属するクラスに何か異変が起こるなら
自分が近くにいれば、必ず食い止められる！
と、思い込んでいるかのように熱心に。
というより、たぶんこれは
お兄ちゃんが大事件に巻き込まれるなら
助けられなくてもせめて一緒にいて
どうしても一番近くにいたいだけなのではないかと
子供らしい単純な決心に揺れている表情は、そんなふうに見えてきた。
それになにより
また体験したことのない中学生より上の学校生活が
やけに華やかに思えるようで
入学の年まで待てなくなったんだろう。
こんなに学校を挙げてのお祭りときたら。
でも、いくら日曜日の学校と言ったって
許可を取って学園祭の準備に登校している生徒たちと
ちゃっかりそれに便乗して、好きなように準備している生徒で
まるで宇宙の始まる瞬間に何もかもが凝縮した場所のような混沌とした状態になっているし
やっぱり、小さい子を連れて行くのは難しいだろう。
うちの妹たちが、お祭りの日が待ちきれないというなら
そこはわかっている子も何人もいるのだし
小雨や麗がうまくやって、みんなを抑えてくれると思うから
任せておこう。
せっかくの日曜日に、わざわざ見に来るほど面白いものでもないのにな。
家でひたすらのんびり過ごす快楽もあるのに。
小さい子たちが良くわからないまま、なんとなく期待しているのと同じように
実は大きなお姉さんたちだって実はそんなに立派じゃなくて
わりと期待だけを頼りに動いているので
実際の準備が始まったら、結構あちこちで悲鳴がとどろく阿鼻叫喚の学校だ。
子供に見せるのもどうかな。
指を切ったり膝をすりむいたり、慌てるものが増えて今や怪我は耐えないし
保健室の先生が校内の様子を見て回っている間に
何かあったら連絡するようにと、暇そうな者に保健室の留守が押し付けられる有様。
教師たちももてあます
校舎がまるごと飛んだり跳ねたりしているような騒ぎ。
だいいち、暇そうな生徒と言ったって
一応は、生徒の様子を聞きに言って
クラス展示の学級新聞に掲載する写真の参考にする用事のためだし
ついでにベッドが空いていたら一休みさせてもらうようお願いしようと決めていたのも
いずれベッドを撮る必要もあるかもしれないし寝心地を知っておくべきと思っただけのことで
仕事のついでもあったんだ。
暇だというだけじゃなかったんだ。
多少は暇だったのは認めるが。
ともかく、仕方なく保健室の番人として
白衣を借りて、保健室を訪れる生徒を安心させる役目も果たして
教師の信頼も、生徒たちの親しみもばっちり獲得して
今日の収穫もそれなりだったな。
そう言えば、毎年この時期は学校中がてんてこまいだから
海晴姉が生徒会長の時も任されて
うれしそうに白衣を受け取って保健室を受け持っていたという話も聞いたが
もしかしたら、この時期ならではの伝統となって受け継がれていくのかもしれないな。
私はそんなに自分から喜んでというわけではなく、断る理由もなかっただけだが
来年は春風の役目になって
その次にはオマエのまぶしい白衣が保健室から学校中を照らし
せっかちな怪我人たちを優しく包み込む柔らかな癒しとなるのだな。
やがてその日が来ると考えると
今日の仕事は思いもかけない未来につながる大きなものだった。
もしオマエの気が進まないというなら、ヒカルに譲るというのも
一つの手ではあるが。
それはそれで私も興味はあるのだけれど。
春風から継ぐなら、オマエのほうがずっと信頼されているだろう？
果たしてどうなるか、その時にはもう私の意見が必要ない話になっているんだろう。
私の手から受け渡すのであれば、何も迷うことはなかったんだがな。
ともあれ、思い残すことがないようにしっかり準備をするといい。
今のうちに学園祭の空気に慣れておくことは
生徒会を引き継ぐかどうかに関係なく、これからの学校生活に生かせるだろう。
明日は私も保健室にはいないと思う。
どこか別のところで、また新しい伝統を作ってしまうかもしれないが
その時はまたその時で
オマエに期待する未来がこれからも増えるかもしれないな。