小雨

『まかせて』
ま、
ま、
ままま
まかせて
ください!
大丈夫です。
たぶん、全然頼りになるようには見えないと思うけど
小雨はやります。
無理とわかっているのにやってみたいなんて
そんな無謀なこと、今までの小雨は何が起こるかわからなくて
とんでもない失敗をして予想もしなかった事態になったらと思うと
あんまり怖くてとても引き受けるつもりになんてならなかったと
でも、信頼できるのは小雨だけだと言ってもらったんですもの。
霙お姉ちゃんにも
春風お姉ちゃんにも
必ずできるって励ましてもらって
小雨にはとてもできない気がして逃げ出したい気持ちは
本当を言えばまだ心の中で勇気の出口をふさいでいるのだけど。
小雨の他には誰も
麗ちゃんならもしかしてと思うけど
あんまりその気がないみたいだし
大変な役目だからって、妹に代わってもらうなんて
やっぱり良くないと思うし……
小雨が情けないから、そうなっても仕方ないかもしれない。
だけど一番信頼してもらったのは小雨だから
できることだけでもしたいんです。
学園祭まで、わがやのちびちゃんたちが期待のあまり大騒ぎをしすぎないように気をつけたり
ついに本番の当日が来たら、みんなを連れて
迷子にならないで楽しめるように見ていてあげるお仕事。
当日は、もしかしたら海晴お姉ちゃんもいるかもしれないし
電車の移動では麗ちゃんが力を発揮するのかもしれません。
いざとなったら小雨のすることはあまりないとか
そもそも、任されたお仕事が果たせない場合だって実際にありえるわけで
小雨はまったく期待に応えられない予感がしていても。
お兄ちゃんたちはみんな
学園祭の準備に一所懸命です。
立夏お姉ちゃんまで大忙しで、なかなか手があかないなら
もちろんその次に大役が回ってくるのは
年長の小雨に決まっているんですもの。
……ぶるぶる。
本当は、あんまり自信がないなら
最初から断ったほうがいいのかもと思うときもあります。
だけど……
立夏ちゃんや麗ちゃんと話しました。
立夏ちゃんは帰ってきたら疲れていて、このごろはいつもより早く眠ってしまうのに
小雨の話を聞いてくれて。
普段迷惑ばかりかけている小雨だから
少しでも期待していると言ってもらえたときには、せめてがんばってみたいと思ったこと。
失敗ばかりしていたって
こんな小雨でもできるとみんなが任せてくれるし
小雨ももしかしたら
いつも助けてくれる頼りになるお兄ちゃんの妹なんだから
少しはできるのかもしれない、
ちょっとなら希望を持ってもいいのかな、
と思いかけていること。
聞いてもらって。
立夏ちゃんも麗ちゃんも
小雨が突然しっかりするようになって
てきぱきとお姉さんらしい仕事が
すぐできるようになるそんな姿は
まったく思いつかないと言う意見は一致したみたいで
部屋の中で、三人一緒に黙り込んで
少し想像した短い時間の後に
誰からともなく噴き出してしまったこと。
そうですよね。
いくら小雨がやる気になっても
そんなにすぐにかっこいいお姉さんになるわけがないもの。
それでも少しでもやってみたいと思うなら
無理な目標でも
一歩一歩、焦らずに
自分にできることからはじめていくしかないんですもんね。
小雨がそのつもりなら、協力してくれるって
立夏ちゃんも麗ちゃんも言ってくれました。
麗ちゃんは、自分もあまり頼りになるかどうかわからないって言ってたけど
小雨よりもずっとしっかりしている麗ちゃんでも、そんな気持ちになるものなんですね。
立夏ちゃんは、小雨ちゃんのためなら何でもして助けると頼もしいけど
学園祭の準備をしなさいって麗ちゃんにたしなめられていました。
小雨の情けない悩みを聞いてくれて
ごめんなさいと申し訳ない気持ちにもなるけど
全然嫌な顔もしないで力になるって約束してくれて
助けてくれることがうれしいだけじゃなくて
小雨のことを……
自分でも気がついていなかったけど、自信がないのは間違いないのに
それなのに小雨は
みんなの役に立てるなら、自分だって本当はやってみたいんだと
そんなふうに考えているんだとだんだんわかってきて
小雨の背中を押してくれるみたいに
立夏ちゃんと麗ちゃんも、自信がないなら代わるよじゃなくて
きっとできるだから、もしうっかり失敗しても助けるから大丈夫だと
小雨の一番してみたい挑戦を
何があっても、
きっと助けると真剣に伝えてくれたこと。
うれしかったのは
みんなの先頭に立つこんな仕事に全然向いていない小雨でも
やってみたいなら
苦手でもだんだん慣れていくし
絶対上手になっていくよって
本当にそう思ってもらえているような気がしたこと。
小雨の思い込みかもしれないけど
大丈夫なんじゃないかって
相談する前より、少しは心強い気がしてきたんです。
今すぐになんでもできる理想の小雨になるなんて無理だけど
でも、全然だめでもなかったのかもしれない。
できるはずないと思い込んでいたのに、もしかしたら
すぐにじゃなくても
少しなら
それともやっぱり……
震え続ける気の小さな胸のうちはどうしても変わらないけれど。
お兄ちゃん、小雨はやっぱりあんまり安心して頼りにできる子じゃなさそうだけど
でも、みんなを見ていてあげるお仕事を
任せてもらってもいいですか?
学園祭まで準備する時間は
実は本番と同じくらい、学園祭の大切な部分なんだって聞きました。
小雨がやる気でがんばっていると
見ている人はあまり落ち着いていられない気がしてしまうのは、どうしても仕方のないことだって
わかっているんだけど。
どうか、こちらは小雨に任せて
準備できることを全部、心残りの内容にがんばってください。
みんなが学園祭の成功を願っているんです。
努力が実を結んで、きっとうまくいって
うれしい思い出になって残る学園祭が、立派にお兄ちゃんたちの手で作り上げられることを
小雨も遠くから、ぜんぜん何も力がないのに
どうしても祈らずにはいられない。
小雨が足を引っ張ってしまいそうでも
素敵な学園祭を
誰もが笑顔で迎えられますように。