観月

『奇書』
東に住むもの、西に住むもの
山に住むもの、海に住むもの
人なれば住処も育ちも問わず
隠すとも隠さずともいずれであるとも浮かれ騒ぐ
太鼓の脈動と笛の音と
沸き立つような祭りの熱気。
もうすぐ、兄じゃの学校にも祭りがあって
にぎやかな声に呼ばれて、神々が集う。
古から変わらぬ営み。
それはもう毎日が祭りのように騒々しい夕凪姉じゃであっても
やはり本当に人々の集まる大きな祭事は特別と見えて
プログラムをじっと突き通しそうなほど見つめる目も真剣で
期待に濡れるいつもの輝きも、なぜか口数少なく
圧倒されるように、畏敬のように
並んだ文字に浮かぶ熱意の炎を感じ取ろうと集中しているよう。
みながついに祭りを迎えて
その時に果たして何が起こるかは、力を持つ神でもはっきりとはわからぬ。
ただ、祈りに与えられる結果を信じ
伝えられた技をひたすら尽くして
成すべきを成すならば、
あとは天に任せるのみ。
兄じゃが学園祭を成功させようと願う準備は
夕凪姉じゃがくっついてついていって
結局、蛍姉じゃの指導で占い師の衣装を縫うことになったようで
困らせているのか、あれでどうやら役に立っているのか
その日を待つまわりの思いに波のように揺られながらも
ひとつひとつ着々と進んでいるという話で。
そうなればいずれは
地道な努力が結果を結んで
あとはがんばったごほうびに
思い出になるお祭りが今年も開催されるのであろうと
わらわの手で開くには少し大きいおとなむけプラグラムを
落とさないようにしっかり持って、姿勢を正して眺めていると
どうもむずむず
頭の上でキュウビが反応しているのは
いったいどの出し物であろうか?
文化祭の一覧を指でなぞっていくと
指先にぴりぴり反応するのは
うむ、どうやら
昔も今も人を惑わす
あやしい知恵にあるようじゃ。
人がどこまで知るべきか
神意を捻じ曲げ、人の営みに淀む
たとえば丑の刻参り
あるいは代々の家にくだんが生まれる呪い
また、雪女に出会った話の秘密や
双子がともに持ち合わせる感応力
などなど、少し違うのも混じっているが
ともかく、人が持つには少々物騒な知識が
古い本にはさりげなく残されていることもあるようで。
同じ知識が、まるで無害であったりもするし
細い蜘蛛の糸になってどこへやらへ導くこともあり
困るのは、問題の文化祭になる前日に行われる借り物競争で
思い人の手を取る指令が出てしまったら
これをきっかけに進展してしまうこともありえる
そうなれば事前に止めることは難しい、使い手次第の秘術になりそうで。
キュウビがどうも興味を持って、物欲しそうに震えているのは
このプログラムの記述によると
図書委員会が主催する古本バザーは
毎年の隠れた名物で、OBからの寄贈には意外な珍品も並ぶと
この店にどうも
わらわの生まれ持った力を必要とする何かが待っていそうな……
呼んでいる気がする。
放っておいたら、別の恋人たちを結び付けてしまう
ここだけの技が
どうも見つかる予感がしてならぬのじゃ。
悪い気配なのか、巫女なら身につけておいて損はない技術なのか
今のところはなんとも言えぬが
どうも、修行が至らぬこの小さな身にも届くほどの力なので
他にもいったいどれほどの影響を及ぼすのか計り知れない。
何か大変なことが起きねばよいが……
体育祭や
準備期間に
もしも、やけに仲むつまじい恋人たちが目に付くようなら
大変じゃ!
兄じゃも注意しておくのじゃ。
もしもの時は、祭りの本番を待たずわらわの力が必要になる場合もある。
そういえば、兄じゃのクラスは昔からの言い伝えのままに
やっぱり生徒が神隠しにあうのであろうか?
今のところは、兄じゃの様子を見ても
話に聞くほどには危険な気配は感じられぬ。
これはやはり
立夏姉じゃが自信いっぱいに宣言するとおりに
消えた人がいたらマジックの箱から現れるのが決まっている、
からであろうか。
しかし、現れた生徒が元のままの姿であるとは限らぬ。
消えたときは少年だったのに、帰ってきたら白髪の年齢不詳だとか
人に許されぬ知恵を手にして、ただ沈黙のみで語るようになるなど
うむ、ありうる。
マジックショーで紙吹雪と一緒に出現したと思ったら
人とは思えぬあやしげな色気を身に備えていたとか
昔からもよくある話じゃ。
兄じゃも、何か起こりそうな予感があったら
遠慮なくいつでもわらわを抱っこして
どこにでも連れて行けばよいのじゃ!
きっと助けになるぞ。