『おやつ迷宮』
さむくてさむくて
朝も晩もぶるぶる震えているような
おそろしい記憶ばかりが積み重なる一日も
実はそんなに凍えているわけではないと
ゆっくり落ち着いたときは考える。
おお寒いと手を奪い合って温め合う遊びをしたいだけなのかも。
暖房の前で騒いで怒られたり
懲りずにそのままおしくらまんじゅうまでしていると
いつのまにか上着をぽんぽん脱ぎ捨てているのだから
それは蛍姉じゃにもびっくりされるというもの。
汗でぽっかぽかになったら
誰が最初に言い出したものか
アイスがいいと聞こえたら
たちまち声をそろえて
そうじゃ!
アイスじゃ!
アイスアイスと蛍姉じゃを困らせるちびっこ一味に変わる。
もちろん、この時期は
冷蔵庫に用意はないのだから
変わりにおまんじゅうは?
だめ!
チョコレートは?
だめ!
やきいもは?
だめ!
しまいには
蛍姉じゃが先読みをして答えるようになるほど
わかりやすい面白がりっこたちなので
ついに寒空の下
アイス買い出し隊が出動した。
向かい風に負けない情熱と
臨時のお小遣いを手に
計算が得意な吹雪姉じゃと
じゃんけんで負けたわらわが
白く冷たい街を行く。
もしも吹雪姉じゃがいなかったら
みんなはアイスを食べることができずに
勢いよくチョコアイスを探しに出たわらわも
話にあった冬の新作チョコというのを
立夏姉じゃから聞き及んでいた情報を頼りに
買い込んでおったであろう。
どちらにしてもおいしいおやつの時間であったろうと思う。
しかしわらわの内にお外の寒さで生まれた気まぐれは
吹雪姉じゃが目的に突き進む真剣なまなざしと
あるいはアイスへの思いに敗れた。
楽しいおやつの時間には
いつもこのようにおいしさを巡る戦いがあるような気がする。