『ラブレター・フロム』
風が強くておそろしく、
せっかくおしゃれにした髪が乱れそうな日に
見つかる小さなお楽しみといえば。
窓を挟んだこちら側で
お気に入りのティーカップから
白く手元でゆらぐ香りを味わい
お空の大きなスケールで吹き飛び形を変えていく
あの遠くりっぱな雲をながめてくらべること。
マリーがふーってすると
青空に雲も揺れる。
あれはマリーがこねていじったわけではないけど
そういうごっこ遊びもまじえつつ。
また一方で
くるくる変わる形は私たちに何を教えようとしているの?
丸い地球の神秘のパワーを感じる方向でも想像しながら
夢も空想も大きく翼を広げる空を見つめて
ええと――ぼーっとしているなどと言われないように
優雅な時間を過ごしていることを主張したりします。
ま、観月は細かいことにこだわるけど
マリーは雲の形を変える力が何だって
別にどうでもいいことなのよね。
形を変えていくのを見るのが面白いだけ。
千切れてつながり
白の絵の具は自由自在。
どこかで知っている形を発見しておどろくのよ。
風が吹く日はなおさらエキサイティングになるの!
観月が怪しいぬえを見つけた雲は
虹子の指差す先でぞうさんに変わり
せっかく名前をつけてもらっても
首輪をつけるのをこばむみたいに
羽が生えて逃げていく。
マリー、知っているの。
あの子たちはいつも目指していた。
きっとペガサスになって自由に駆けまわるつもりだった。
でも、そんなゴールにも満足できないで
自由を求めて広い青空を横切る!
こうして次々に変わる雲を見て
いちばんゆかいな事は本当は何かって
フェルゼンは知っている?
青空が青空がって言うたびに
喜んで踊るおうちの青空ちゃんもだけど
でも、何よりも
あとでフェルゼンに教えてあげたいことばっかり
きりがなく増えるのがうれしいわ!
ぜーったいマリーの今日の出来事を聞きたがるもの。
聞いたら喜ぶフェルゼンだもの!
広い空を見て
青空が踊ったり
マリーがフェルゼンにいろんなことを伝えたいと思いながら
優雅な時間を楽しんでいたと知ったら――
きっとフェルゼンに話を聞いてもらえて幸せなマリーよりももっと喜んで
それはいい日だね、
とてもよかったねって言うかしら。
もしかしたら楽しすぎて抱きしめてくれたりするかも!
と、いったようなことを
風に負けないくらい自由に物思いを行ったり来たりさせたのよ。
遠く離れてもマリーが愛さないではいられないなんて
フェルゼンも罪なひと!
優雅な雲が――
たまにはフェルゼンを懲らしめる方法を教えてくれないかしら。