『ファイナルカット』
春めいて暖かい日も増えてきました。
日が当たる窓辺は
少し汗ばむくらい。
みんなが暖かい日を歓迎しているのは
わかっています──
でも、人の体質は
家族でもそれぞれ。
快適な気温もそれぞれなので──
私としては、寒い冬が終わるのは
寂しい気持ちもあります。
いつまでも続いていたら大変だと
わかっているとしても──
過ぎ去って戻ってこない日を
懐かしむことに──
あまり建設的な意味がないとしても。
それでも思うのです。
冷え切って不純物の混じる余地のない
澄んだ空気と、
頭が回転するとき
集中力を維持するのに適したちょうどよい寒さ。
知ることすべてが自分の中に
何の抵抗もなく滑り込んでいくような──
あの時期は、ものを覚え、考え事をするのに
ふさわしい季節だったと思います。
これから暖かくなっていくと
ぼうっとしてしまい、
ついには暑さのあまり
考え事が苦手になって
覚えていたことも忘れて行って──
その時の私も
今の私から地続きであるのに
快適な時期を過ごした日が遠くなり
その時にはもう──
あんなに豊かな季節があったことがもう
忘れられてしまう。
そうなるのを恐れている──
楽しかった冬を
家族と過ごした自分がいなくなってしまうことを。
もう戻ってこないといつか知る自分を
受け入れたくないということ──
少なくとも、しばらくの間だけは。
どうやら、まだ本格的な春というには
寒い日も続くそうです。
春は──できれば、ゆっくり来てもかまわないでしょう。
私たちも、心の準備が欲しい時はあるのです。