吹雪

セルシウス
電子式デジタル体温計を信頼すれば
夕凪姉が今朝、腋の下で計測した体温は摂氏37度8分。
鼻はティッシュの使用量が影響していつもより赤く
目も潤んでいくらか充血しているようで
頬ははっきり熱を伝えて高潮している──
明らかな風邪の症状。
食欲もあり、意識ははっきりしていて
そこまで熱が高くないため一日様子を見ることにして
夕凪姉は学校を休んで眠らなければいけないことになりました。
みんなが心配そうに体温計をかわるがわる何度も覗き込んでも
数字は変わらないのに
何度も何度も。
額をつつき合わせて
手渡した体温計を見やすいように右回転し、左回転し
忙しい朝にもほぼ全員が確認している間
本人は何事もないような表情で
使い慣れたスプーンでせわしくジャムを塗っている。
赤い顔は、どこからどう見ても風邪なのに
なにしてるの!
すぐ部屋に追い返されて
ジャムパンは持っていったらしい。
食べながら……だったそうです。
熱があるほかはいつも通りにしか見えないけれど
本当に素直に眠っているだろうか?
無理して起き出してこないか?
ちゃんと枕元に用意した飲み物と果物を定期的に摂取して
一度に食べ過ぎたりしないでいられるか?
星花姉が急いで帰ってきたとき
枕元にあるはずの品はなぜか
絵本が増え、
飲み物の缶が増え、
みかんの皮とりんごの皿は片付けられ
お菓子のふくろのかけらが残っていたという。
私が帰ってくると
星花姉はベッドでむにゃむにゃ言っている夕凪姉の頭をなでてあげていたので
きちんと休んでいたのだな、
と思って聞いてみたら
まだ少し熱があるため
洗面器に入れたタオルを持ってきて絞ったら嫌がったので
その代わりに仕方なくなでていたのだとか。
これなら落ち着いてくれると。
なでたら……
体温が適切に下がるのでしょうか?
夕方の計測では摂氏37度1分。
帰ってきた家族たちは
ケースに収納されたままの体温計を手にとって
夕凪姉のところに持っていこうとしたところで話を聞き
安心した顔をする。
朝にはずいぶんみんなを不安にさせていたあの体温計が
数時間後の夕方には別の感情を呼ぶ。
そのように表情に直結する数字もあるらしい──
すると私の表情も変化をしていたのだろうか?
観測していたと思われる星花姉は看病で疲れて早めに休んでいる。
星花姉も安心したようで、すやすやと気持ち良さそうな息をたてる。
夕食の時には同じ部屋についていて、簡単な食事を取っていただけらしいから。
同じ部屋の二人の寝顔は今日あんなに騒動の元になったとは想像もできないくらい
落ち着いていて
学校から帰ってきて様子を見に来たのは誰なのか、
あるいは何人いたのかと
食事の途中で騒ぎになったことや
その最中に戻ってきた蛍姉が
先ほど持っていったおかゆのおかわりを要求されたとか
話題になったことなど何も知らないよう。
人間の体には胃腸が備わっているものだから
風邪のために機能が鈍っているときであっても
活動はしている。
無理はさせるべきではない、あるいは栄養を与えたほうがいいと話し合って
結局──
様子を見て渡すように、
眠っていたら私が星花姉と食べてもかまわないとデザートの焼きプリンを皿ごと渡されて
部屋に戻った私が
すでにベッドに入った二人を眺めて考え込んでいることなど知らない。
もう夕凪姉の顔は赤くないようです。
星花姉も疲れを残してはいないみたいですね。
一応、明日は様子を見ていたほうがいいでしょう。
風邪で弱った消化器官はそろそろ正常に戻ったでしょうか?
昼間寝すぎたからと夜に目を覚まして
寒い中をはねまわったりしないか。
プリンの空いた皿は早めに戻しておいたほうがいいと考えられる。