綿雪

『ゆきがちかづく』
今夜は雨から雪になるそうなの。
しとしとと鳴る冷たそうな音が
耳を澄ますといつのまにか聞こえなくなって
真っ白な雪が落ちてくるといいます。
だけど晩ごはんにはあったまるあっさり水炊きのあと
雑炊のお米もおつゆも大きな鍋がすっかり空になるまでにぎやかだったし
雨の音が聞こえるかどうかもわからないくらいだったね!
おなかいっぱいで横たわっているみんなの話し声が
たまに途切れたその時に
はじめて、雨がまだ降っていたことに気づくんです。
しとしと。
雪に変わる瞬間を知らないで
このままベッドに入っていくんですね。
カーテンを隙間を開けてチラッと見ても
おなかのところに青空ちゃんと虹子ちゃんがやっぱりカーテンをめくっても
音がしているんだからもちろん雨のまま。
そうだよね。
まるくて白い雪の粒はまだ姿も見えないまま。
やわらかで冷たそうで見渡す限りを一面埋め尽くして
本当に明日の朝にはこの庭にも薄く積もるのでしょうか?
東京都でもすでに雪のところがあるっていうけれど
このあたりはあたたかいのかな?
意外と明日の朝までぽつぽつやまないままの雨だったら
足元を気にしないお買い物が少し気楽になるのはいいかもしれませんね。
お休みだから
ユキは近くでもおつかいに行ってみたいんだあ……
寒くちゃいけないでしょう?
降らないのもいいかもしれないし。
でもやっぱり雪が降る景色がまた見れるかもって聞くと
それは降ったらいいなって気持ちにもなるので
結局どっちがいいか決めないまま
雨の音がするのにまた窓の外を見る。
見えるのはガラスを伝う雨のしずくばかりで
あとはもうまっくらやみ。
遠くの街灯があるあたりがぼんやりわかるだけ。
ぽつぽつ降りのなんだか止みそうな雨は
まだぜんぜん雪の気配なんてなくて
どうしちゃったんだろう?
こういうお天気の関係?
こごえる寒さで始まった一週間が
きのうくらいはあたたかい日になって
そしたらまたすぐ雪らしいぞって
目を回してしまうくらいめまぐるしい天気で
本当に雪が降るのだろうか、
虹子ちゃんはなんとなく降りそうな気がするってわくわく落ち着かないみたい。
それならと立夏お姉ちゃんも信じているそうです。
降るのかな?
もしも実際に雪がはらはら
この窓の中の暗闇を舞い降りてきたら
もうベッドに入ってしまうユキには
止んでしまったのかとうとう雪になったのかもわからないなんて
みんながハラハラお天気を気にしている雪なのに、へんですね?
おうちの小さなユキがそばにやってきたら
スリッパがパタパタ、すぐわかってしまうのにな。
でも立夏お姉ちゃんほど一発でわかるほどじゃないから
ユキもまだまだです。
どんどんどどん
ゆ・ゆ・ゆ・ゆきーっ
なんて歌いだしたら
きっと雪が降ってきてうれしいと勘違いする子があらわれるよね。
立夏お姉ちゃんの真似はできないユキなんですね。
りりりりっかーの
きれいで元気な声もお部屋に戻って今は遠く。
また明日まで、おやすみなさい。
お兄ちゃんも元気なあーちゃんも夜は眠るのだから
誰にも気づかれないままの忍び足でお庭が白くなる
朝が来たらいちばんにぎやかになるのはだれだろう?
まだまだ子供で、たまにはしゃぎたりないユキが
雨から変わってそんなに寒すぎない雪の日の朝だけはうるさいと
そんなことがあってもいいかもしれないですよね?