観月

『はじまり』
汗っかきの背中を解放しようと
ふだんより高く髪を結んでもらった月は
音も立てずに通り過ぎて
のそっと身を起こした新しい季節が
われらのまわりに手形を残して次第にその身を誇示する
星辰を見て時を刻むものたちの、今日は誰にとっても特別な日。
蝶が花に集うがごとく。
猫が陽だまりを探すかのように
人々は群れを成す。
幼稚園もころころかわいらしいわらべたちを迎える。
ほっぺたも赤く興奮した様子で
先生のあいさつにも礼儀正しくお返事ができたなら
懐かしい顔、かつて行きなれた場所に
時間もかけずにまた馴染んでいく。
マリー姉じゃの話によると
ちょっと見ない間に大きくなった子がいっぱいいるようだし
さくらが語る情報によれば
この夏、海外に渡ったお友達から
大きな世界の話を聞いて
どきどきするような怖いような顔で
話をしながらわらわにしがみつくのであった。
よしよし。
幼稚園帰りのさくらも
面白いおみやげ話を兄じゃにしてあげるとよいぞ。
たぶん兄じゃも新しい経験をして
おどろいたり懐かしがったり
刺激的な学び舎の空気をいっぱい吸い込んで帰ってくるはず。
さくらがついていて
おうちではゆっくりさせてあげられたらいいな。
ちょっと会わない間に
見た目はどんどん変わっていくものたちが
学校に、いつもの帰り道に、横目で通り過ぎる鳥居の向こうに
人の営みを古より見つめる変わらない慈しみを浴びて
今日もはらはらしながら
昔ながらの踊りに似たゆかいな姿。
どこでもよく似た、人ならではの姿で大きな天の下に振舞うのであった。
立夏姉じゃも蛍姉じゃも
久しぶりに教室に集まったお友達の若々しいおしゃれに
きらきらしている!
青春のきらめきをこれでもかと放っている、
と主張して
かなわないかな
でも、負けられないかな?
たおやかな体から熱気があふれ出すよう。
久しぶりの白い制服の半袖がこころもとない雨降りの日も
汗ばむほどの体験だったらしい。
いっぽう、氷柱姉じゃは夏休みの間も学力強化の補習授業。
ヒカル姉じゃは部活の助っ人であちこちに顔を出していたし
霙姉じゃはこれしきのことでは顔色も変えず
するっと馴染んでいく新生活。
いってまいります、も
夕方のただいまも変わらぬ調子で面白みがないな。
おみやげ話はいくらあってもいいのだから
ねばって聞き出してみようか?
夏の若々しいお日様の頃に別れた日常と
月がしっとりとやわらかな光を届けはじめた季節では
変わらぬことはいっぱいあったって
すれ違いながら触れるようにして知る新しい景色もたくさん。
明日の幼稚園の時間が遠い気がするちびたちに
新しい始まりの予感が四方八方に広がってこだまする楽しいお話を
学校からでもどこからでも、わらわの知らないところからでも
両手に抱えて持ち帰ってくる大人たち。
きっとそうであろう。
期待をしてわらわがとびはねているのだから
これはもう、心の中をごまかすことができないので。
兄じゃに飛びついて
学校のお話をせがむのは
いけないのはわらわではなくて
今年また吹き始めた涼しげな秋の風のせい。
だから少しばかり興奮しても仕方ない。
小さな気配に乗って新しい変化が忍び寄ってくる季節を
わらわは、この目で全て見つけ出したいのじゃ。