真璃

『愛の嵐』
興奮してくると
胸の中がむずむず。
あとさきを考えないで
飛び出して行きたくなるの。
もぞもぞ。
天を焦がそうと高く燃え上がる
たましいのほのおは
あまりにも熱くて
白く、気高く。
左胸の前で指を使って描く
心を込めたハートマークの
その奥にあってどっくんどっくん音を立てている
情熱のみなもと。
心のありかは
この場所がそうなんじゃないかって思うときもある。
まあ、
胸だけではなくて全身で感じるのだと
マリーはもう
永遠の愛を一つだけ捕まえて離さないから
とっくに知っている。
たった一人の人と重ねた思い出は
教えてくれる。
体のどこかに
動き出して止まらない
激しい気持ちがあることを。
だからマリーの気持ちが
いつか爆発して思いもつかない加速をつけたって
何も不思議ではないわ。
それはどんな人たちだってそう。
身分に関係なく
男女のどちらからでも決まりはなく
愛を待っていた清らかな乙女が
ついにただ一人の相手を知って
スカートの裾を巻き上げるのももどかしく
はだしで駆けて行く。
草原に足を取られつつ。
湖のほとりで水を蹴立てて。
固い石畳に足が痛んで
もう足が動かないような苦痛の中でだって
あの人のもとへ!
怖くても
ためらいはしない。
いったい受け入れてもらえるのか
少女の暗い底に淀む重たい不安も
決して、転がりだす気持ちにブレーキをかけたりしないわ。
進んでいく。
ゴールを迎えるその瞬間まで。
そしてまた
愛する人と進む道の先へ。
手に手をとって
旅は続くの。
心の中に宿った明かりは
永遠に消えることなく
どんな夜も行く先を照らし出す。
女の子を止めるものは
傷あとの痛みでも不安でもないの。
いばらを踏みつけ
火の粉が舞う戦場なら
頭から水をかぶって
愛する人へ向かう道のりならば
目をそらさずまっすぐに進むことしか
女の子は知らないのだから!
愛のために命をかけて戦うさだめは
男女の区別なく必ず訪れる。
愛のためでも
毎度毎度命をかけるのは物騒だから
恋敵の命のバラを散らす決闘ばかりじゃなくても
今回みたいに
フリースロー勝負やPK合戦もいいかもしれないわね。
愛に生きる人たちの本気度は
どんな戦いのさなかだって
決して変わりないと信じているわ。
というわけだから
フェルゼンからヒカルちゃんを奪おうと
部活動の部長さん連合が
年末のスケジュールをかけて戦いを挑んできたって。
バスケットボール部、サッカー部、ソフトボール部、卓球部、
それからはがきを出したときはまだ不参加だったけど
土曜日に仲の良さを見せ付けられて対抗意識に燃えてしまったテニス部まで。
マリーは、愛に突き進む人たちを止める言葉なんて
何ひとつ持たないで生まれてきたわ。
愛を知りながらもとまどう人たちに
迷わず進んでかまわないのだと
身をもって示す道しるべになるよう、運命付けられて生まれてきた。
愛に生きる女王マリーの宿命なの。
だからマリーは
もちろんフェルゼンを応援するけれど
部長さん連合の人たちを非常識だと責めるつもりはないわ。
少し非常識だとしても
愛する人の行動は
いつも型にはまらないものよね。
例によって、当人のヒカルちゃんがあわあわしているうちに
おにーちゃんはマケナイって挑発する立夏ちゃんと
先輩後輩関係を持ち出されて
その場は勢いで押し切られてしまって後になってぷりぷりする氷柱ちゃんが
どうして、フェルゼンとの待ち合わせ場所にちょうど居合わせたのか
事情はよくわからないけど
そんな話だと聞いたわ。
決戦は次の金曜日。
その日にはついに
今年のクリスマス会に絶対に呼んでみせると迫力いっぱいの部長さんたちと
ヒカルちゃんを奪い合う戦いが始まるのね。
もちろんマリーはとうぜん
フェルゼンの勝利を信じているわ。
いくら部活動の人たちだって、かなうわけないわよね。
相手が悪すぎるのはちょっと気の毒に思うけど
それでも突き進むのが愛だもんね。
フェルゼンの気持ちを見せ付けてあげて!
それともちょっぴり不安なの?
心配しないで!
フェルゼンが一番ヒカルお姉ちゃまのことを愛しているって
マリーは知っているわ。
だってマリーが
一番フェルゼンの事をいつも見ているんだもの。
マリーを愛していることだって、もちろん知っているわよ。
いつもありがとう!
もし万が一、フェルゼンが負けることがあったって
心配しないで!
ヒカルお姉ちゃまを愛している人がここにもいるんだってこと
教えてやるんだから!
あ、もちろんちゃんと変装して勝負を挑むから安心してね。
やっぱりこういうときは男装がいいかしら。
愛のために己の身も省みずに迷わずに決闘の場へ向かう勇敢な姿。
マリーにも似合うと思う?