立夏

『お祭りのあと』

今でも目を閉じると浮かんでくる
胸の温度みたいなロマンティック。
キャンプファイヤー
頬を焦がす真っ赤な炎に照らされて
輪になって踊ったマイムマイムの楽しさと。
もうすぐおしまいが迫ってきて
足が踊りだすリズムの中でも
なぜか、遠巻きになって何人かで集まって
今日のこと全部を胸の中で整理したくて
ゆっくり蘇るままにまかせているみたいに
楽しく踊る輪を囲んで、何も言葉もなくて充分だった人たちがいて。
オニーチャンとおねーちゃんたちの目に映っていたのは
たぶん、揺れる炎ばかりじゃないんだよね。
いつもより少しうるんで見えちゃうその奥に
自分たちの学園祭だけにしかない、特別な思い出。
いいなあ、
何を見つけたんだろう。
抱きついて聞き出したかったけど、
それも子供っぽいような気がしたの。
リカは何度、踊りだそう! って手を誘って連れ出そうとしたか
わかりゃしない。
というか、結局我慢できなくなって
右手にオニーチャンと、左手に氷柱ちゃんをつかんで
最後の瞬間まで、踊り続ける輪の中にいた
お祭り好きトリオだったネ。
夢みたいにきれいなキャンプファイヤーの時間が過ぎて
帰り道に向かう間、
今日一日ずっと賑やかだった学校が
静かに眠りに落ちていく瞬間を見守って
やがて背を向けて。
リカたちみんな、自分たちのおうちに帰っていくの。
先に帰っちゃったチビちゃんたちに
自慢したい楽しかったこと、
日が暮れてからもいっぱいあったよ。
もしもこれが本当に夢の中だったら
眠りから覚めて、すぐに全部忘れちゃう。
たいへん!
そうなる前に、オニーチャンに話して覚えておいてもらわなくちゃ。
でも、帰り道は家族で並んで
今、この中で一番小さいリカがはしゃいだら、
まだ元気があまってるのが一人いる、って笑い合いながら
みんなで一緒に歩いたよ。
夢みたいな時間だけど、まだ続いている。
キャンプファイヤーが終わったって
ただの一区切り。
覚めたりなんかしないよ。
夢じゃない。
だからリカは今日のこと、これからも忘れない。
もし忘れそうになったら
思い出させてね!
楽しかったこと、たくさんあったもんね。
夢じゃないよねーって言いつつ
帰ってきてから、すっきりすやすや眠ったら本当の夢の中でもいいことあって
さすが学園祭、って思って喜んでいたら
目が覚めたときは月曜日も夕方。
寝てる間に振り替え休日が終わっちゃった!
わーん!
夢みたいな時間が続いたものだから
本当の夢ももうちょっと長く続くような気がしちゃった。
てへへ。
学園祭のお祭りの後でも、もうちょっと夢みたいないいことが続いてほしかったけど
やってきたのは、だらだらしている間に休日が終わってしまった悪夢だったね!
そろそろいつもの現実に戻って、リカの元気な毎日を取り戻さなくっちゃ。
明日からはまた学園生活の始まり。
イベントのない日々だって青春!
狙いたい楽しいこと、いつでもあるんだもん。
好きな人の隣でお弁当を広げて、あーんしてあげる日だとか
してみたいこといっぱい
普通の学生の毎日にも見つけ出して
明日からも元気爆発で過ごします!
本当は、学園祭の楽しかった二日間もね。
落ち込みかけたこといっぱいあるんだ。
オニーチャンも、リカの教室にマジックショーを見に来てくれたでしょ?
お笑いと不思議のコラボレーション、
リカが失敗してすぐ、クラスのみんなが実演して見せて
普通に演じるよりより引き立つ謎の魔術。
他のクラスは絶対真似できないチームワークを
主にお笑いメインで評価してもらって
後夜祭の発表では、リカのクラスが名誉の新人賞を受賞!
賞状を受け取ってリカがうれしいよーって泣いてしまったのは
実は、ショーがうまくいったからじゃなくて。
練習どおりなら、もっとスマートに
失敗なんて何もなく拍手をもらえるはずのところを
リカだけ全部ミスしてしまっても
クラスメイトのフォローがあって、それで見ている人に喜んでもらえて。
マジックショーは本当は失敗したんだよ。
最初からみんな不安だって言ってたの。
手品がいいってリカが提案したのは
絶対楽しそう、と思っただけで
ぜんぜん手先が器用じゃないのに果たして成功できるのか、
なんて不安は少しも頭に浮かばなかったから。
学園祭の期間中、ずーっと心配され続けてたんだ。
すごく仲のいいオトモダチも、ふつーによく遊ぶ知り合いも
先輩も後輩も
家族だってクラスの子だって
本当に大丈夫? って。
きっと成功すると請け負ってくれたのは
うちのかわいいちびちゃんたちと
それから、誰よりもやさしいオニーチャン。
大変だった練習の毎日も
これはたまらんって逃げ出したくなっても続けられたのは、信じてくれる人がいたからなの。
本番でリカは
うまくできるようになった手順をすっかり忘れて
どう考えたって失敗しないはずの簡単な手品もぼろぼろ落っことすし
でも、リカが失敗しても。
どれだけ泣きたくなっても、最後まであきらめないでひとつくらい成功させて
最後にはショーを成功させるんだ、
オニーチャンは絶対できるって言ってたんだから
失敗しても続けるんだ。
それで、クラスのみんなもあきらめないでやろうって思ったんだって。
普通だったらできなかったはずの難しい手品も
タネが完全にばれてしまってどうにもならないはずの大物だって
まだいける、絶対うまくいく、
誰も、一瞬だってあきらめるなんて考えは浮かばなかったんだって。
クラスの心がひとつになって、見ている人に楽しんでもらおうと思って
がんばって練習してきた甲斐あって、最高のステージになったのは
リカちゃんがいたからだよ!
終わった後に言ってもらえたよ。
そうなのかなあ?
失敗ばっかりで、本当はわんわん泣きたくなっちゃったリカが
良かったって素直に喜んでいいのかなあ。
でも、我が家の一番の泣き虫あーちゃんも
こんなにかわいくて、燦々とみんなの注目を集めて
誰でも笑顔にしちゃう、おうちのみんなのアイドル。
うえーん、リカはまだ赤ちゃんみたいなものなのかなあ。
もうちょっと大きくて立派なおねーさんになりたいのにな。
オニーチャン、リカがまだ赤ちゃんみたいでも笑わないでね。
それで、悲しいのかうれしいのかよくわからない気持ちになって
すぐ泣き出しちゃいそうなことを思い出して
赤ちゃんみたいに泣いちゃっても
オニーチャンだったら、リカのこと許してくれるよね。
ちょっと胸で泣かせてくれちゃったりなんかして……
いいかな?
ぐすん。
そしたら、オニーチャンがもしもこれから
赤ちゃんみたいに泣きたくなっちゃうことがあったら
絶対リカが飛んできてあげて
いつでも泣いていいよ、って抱っこしてあげるんだもん。
約束してあげる。
だから、明日になっていつもの毎日が来たら
元気なリカにすぐなれちゃうように
こんなふうにちょっとだけ泣きたいときは
甘えさせてネ。