『夜の女王』
この無限の宇宙に生まれたての
白銀の炎をまとった星のごとく
ぎらぎらした太陽が私たちの生活を照らし出す
あまりに強い秋晴れの日でさえも
影が差すように夕暮れを迎えた途端に
夏の夜の水面を思わせる冷たい風は
容赦なく暖かな空気を奪う。
天に向かって挑みかかった葉群はもはや
その身にイカロスの翼や呪われしバベルを求める罪への抵抗をやめ
赤く染まる大地に屈服するときが来たと知る。
豊穣を受け止めて恵みを慈しむ季節は
全ての命が太陽のもとで厳しい掟と共に生きる定めを受け入れる頃。
私たちは昨日よりも早く、一日ごとにだんだんと家へ戻る時刻を急いで
小さく灯った暖かい光に手をかざして
疲れた体を心地よく横たえる場所へ。
一時の闇が私たちを包み
やがて永遠となるいつかその日を受け入れる準備をするように
背中を屈めて、育ちゆくぬくもりを見つけながら
誰しも生まれたところに戻って眠るのだと
迷い道の最後に戻っていく。
古びたにおいがする
故郷と呼べる場所で
そっと目を閉じて、時に凍えることもあった一日は終わる。
おつかいの帰りに観月の手をとって
暗がりが交錯する闇の庭園に迷い込んだことで
おつりの範囲で選ばれた箱入りのチョコアイスバーたちも
定めを受け入れて塵に帰る前にまず砂糖水となってこぼれた。
世の中には悲しい運命を辿る命がある。
わずか一瞬でも私たち家族と重なり合った彼らの最期を私は忘れない。
もう帰り道に近道をしようと知らない道を選ぶことは
今後はできるだけ控える方向で考えておこう。
しかし黄昏と影の町を抜けて帰る時間には、すっかり気温が下がるようになった。
秋の日の昼日なたなど儚いものだ。
やっぱりまだ早いという意見と
こういうものを出す時期は人間が選ぶものではなく、移り変わる季節が決めるとする
防寒具を出す時期の話し合いも本格的になってきた。
オマエもこたつで丸まりたいときもあるだろう?
夜は暗く、全てが生まれ帰っていく無限が次第に近づきつつある今。
心細い日暮れと冷たい風の中を歩く先に
こたつと
アイスがあれば
考えただけで、胸の中に灯る炎から全身に血が巡ると
そうオマエだって願うはず。
間違いないはずだ。
やがて塵になる短い命の者たちが
自分を偽って何の意味があるだろう。
全てを快楽にゆだねて
素直になるといい。
正直さが恥ずかしくなどないと心から信じるのは
本当はとても勇気が必要で
でも、人が生きようとする限り必ず一度は乗り越えなければならない壁なのだ。
たぶんそうなのだろう。
まあ、この考えが間違っていたとしても私はいっさい責任はとらないが。
それでもオマエが自らの心に正直になろうとした時
私はいつもその気持ちを受け止めてやりたい。
大事なことで嘘をつかないと決めたなら
どんな話だって最期まで聞いてあげる。
受け入れるかどうかはその時に考えるとして
宇宙が消える瞬間まで、たとえ塵になっても私はオマエの姉なんだから
本当の気持ちを聞いて
励ましてあげたり、いけないことは叱ってあげて
何があっても嫌いになったりしない。
いつでも真剣にオマエを思っていたい
ただそれだけ。
正直になるということは
オマエに何があっても一緒にいると決めた人がこの世にいると
それを知ること。
だから私の前では何も隠さず話していいと知ること。
短くて儚い生を全うするあいだ
自分を愛している人間がいることを何もためらわずに信じるだけで
心に落ちた暗く重くのさばる迷いが
どれだけ愚かしいか気がつくだろう。
たぶん。
細かい理屈はどうでもいい。
オマエを愛する人間がここにいる。
私たちは家族なんだ。
夜の闇が広がり頭上すれすれまで降りてきても
同じ家に帰れることを喜んで
寒い季節が来て、暗い夜に押しつぶされそうな時には
その分だけまたたく星が近づいたと
すぐそばで一緒に指を差して見つめていられたら
私は全身を暖める灯し火が生まれたと感じるはずだから。
きっと遠く離れる時があったとしても
同じ星を見上げているかもしれないと
オマエのことを思うから。
それが私にとって
家族を愛するということ。
かもしれないな?
これも宇宙の塵のごとく
長い時間を経て全てが形をとれなくなる遠い先
儚く消えていく思いの一つかもしれない。
人は運命には逆らえない。
それでかまわない。
私が家族を愛している気持ちは
嘘偽りなく本当だと信じていられたら
他には何も望むものはない。
……ということにしておく。
そうでもないかな?
まあなんでもいいか。
つまらない話をしたな。
私はただ単に
一緒のこたつで隣に座って
オマエと暖めあいたいだけだし
こたつの中にオマエを引きずり込んで遊びたいだけだし
ずっと動く必要もないくらい暖かな地でわずかな時間でも共に過ごし
しがみついて離さないでいられたらと
そう願っているだけだ。
たまにはオマエの気持ちも聞いてやるが
しかしそれでも
ある程度は強引に自分のやりたいことを押し通す結果になると思う。
これも弟への愛の証。
愛はいつもたった一つの形をとるとは限らない。
その多くを教えるには、果てしなく長い長い時間が必要になるだろうけれど
私は、星と比べても宇宙と比べてもはるかにかすかな一瞬のこの命を
ずっとお前を愛して生きるのだから
心配はいらない。
同じこたつに寄り添いながら
いつまでも一緒にいて
何もかも教えてやる。
約束だ。
私は約束は守るほうだ。
忘れていなければな。
なに、忘れてしまったらまた思い出せばいいだけだ。
今はもっと大事な感情だけに身をゆだねていればいればそれでいい。
むずかしい話ばかり気にしていたら
楽しめることも楽しめなくなってしまいそうな気がする。
だからオマエが迷ったときにいつでも導いてやれるように
快楽の道を進む歩みを
よそ見せず、たゆまぬ努力で続けなければならないのが姉の役目だ。
とても楽しい……いや、まあ、ともかく大変な仕事だな。