『遠出』
今日みたいな暖かい
のどかな日は──
どこかへ足を延ばしてみたくなる。
春らしい
新たな出会いを求めて。
これまで待っていた
気持ちのいい日差しを求めて。
そして──
陽気のせいで沸き起こる
何かいいことがありそうな予感につられて。
その時、私の理性は
こういう出来事のオチは青い鳥は家にいたということになりそうだと
告げていたが──
なんとなく気が付いていてもなお
うららかな季節は人の心を動かし
どこかへ運んでいく力がある。
少し歩くだけでも
この季節をずっと待っていた者たちの
明るい声がする。
花が開く眺めはどこにでも見つかる。
寄り道をすれば
春の新作スイーツなどの情報があり
人が行く道のどこにでも
明るい未来が広がっていると思わせるような
まぶしい季節だ。
明るい光の輝く日だ──
歓喜の日を甘受するには
人はあまりにも
おなかがすきやすく──
のどが渇きやすく──
そして、休憩を必要としやすく──
こんな時に、帰る家を思うのは
何も不思議ではないはずだ。
青い鳥が家にいたというのは
そのような話──だったかな?
とにかく、帰る場所が私を待っていると
この晴れた日の下で
ついに気が付いたというわけだ。
まあ、その後も少し寄り道はしたものの
無事に帰って来たぞ!
よく歩いたあとの翌日は
ゆっくりしたい気分になるから──
家の中で遊び相手を探すことになるな。
オマエも一応、覚悟しておくといい。
散歩で見かけたと
春風におねだりして作ってもらうおやつが
増える春の日になることだろう──

虹子

『どっきどき』
あのひ、みたのは──
まぶしいぎんいろののはら。
ひろがるゆきげしきに
てんてんとかわいらしいあしあと。
にじのあしあと?
それにしては
ちいさいな──
まあるいな。
はだしのまるいあしあとは
きっと、ねこがあるいたあと。
ここから
そのさきへと
まっすぐに──
どこかをめざした。
それは、ふゆのひのおもいで。
すがたもなく
こえもなく
いきるものをさがした、ほんのすこしまえのこと。
そしていま、
よくふるあめのひに
きこえてきたのは
にゃーにゃー
いうこえ。
ホタおねえちゃん!
ねこのこえがするよ。
ホタおねえちゃんは、カレーをかきまぜて
こたえるよ。
あまやどりかな?
ふゆのあいだに
しずかなねぐらにひそんでいたねこが──
あたたかくて
さんぽにでて
あめにふられた。
ねこたちも
こどもたちも
どんどんあるくみちが
ひろがっていくよ。
それは、いいことをきいた!
カレーのいいにおいを
ふりきって──
かさをさして、みぞれちゃんたちをさそってさがしてみたけど
あったのは、どろのうえにのこる
あのひみたあしあと。
にじこはおもうのだけど──
さんぽして
あちこちあるいて
ねこはなにかをさがしているの?
きっとね──
だいすきなおにいちゃんが
かえってくるのをまって
むかえにいったのかもしれないよ。
ねこだって、おにいちゃんといるのが
だいすきだからね。
おうちにかえると
カレーはついにできあがっている。
あのねこも
おうちにかえって
おにいちゃんと、おいしいカレーをたべているよ。
にじこがきになる
かわいいあしあとのねこだもの。
きっとそうだ。
こんど、はれたら
にじこがおさんぽをして
ねこをさがして──
あるひ、おねえちゃんたちとてをつないで
おにいちゃんをむかえにいくの。
あのひみたちいさなあしあとを
にじこのあとにものこしながら──
それは、きっとかわいいけしきだ。

春風

『おやすみ』
夕凪ちゃんはいつも元気で忙しい。
そうなると今日みたいに
お昼寝して過ごす日もあります──
最近は、お兄ちゃんに遊んでほしくて
ずっとお外に呼んでいたんだもの。
夕凪ちゃんが大好きな
誰にもとられたくないお兄ちゃん。
あたたかい春、
きれいに咲いた満開の桜──
いいものを見つけたら
すぐそばにいてほしいお兄ちゃん。
一緒に喜んでほしいお兄ちゃん──
夕凪ちゃんには
とってもすてきなお兄ちゃんがいるの。
でも、夕凪ちゃんは
まだ知らない。
そんな夕凪ちゃんの気持ちを
ちゃんとわかっていて、
疲れて眠っていても
夕凪ちゃんを一人になんてしないで
そばにいてあげるお兄ちゃんのこと。
目が覚めたら、一緒に遊びに行くんだろうなって
今日も夕凪ちゃんといてくれるお兄ちゃんのこと。
夕凪ちゃんが思っているよりもっとやさしい
私たちの大好きな──
大事な家族のこと。
春風にとっては
お兄ちゃんがいる気持ちはわからないけれど
春風に王子様がいて
一緒に過ごしてくれている気持ちはわかるから
もう何も、これからは
困ることはない。
きっと夕凪ちゃんは
せっかくの春の日に遊びに行けなくて
起きたら物足りなく思うのかもしれない。
でも、私たちはわかっている。
あんなに夢中で駆けて行った日々と比べたって
ちっとも残念に思うことはない
そんな日を過ごしていたこと──
やがて夕凪ちゃんも
気付く時が来るのも──私たちはもう知っている。
だから今日は、ゆっくり休んで
またみんなで過ごす楽しい時間のために
備えておくといいと思います──
うーん、ふわわ──
幸せそうな寝顔を見ていたら
春風にも眠気がうつってしまったみたい。
目が覚めた時にまた元気になれるおいしいものを作っておきたかったけど
少し休んでおこうかな。
春風にも、そばで待っていてくれる家族がいるんだもの──
私の王子様も、春風の隣で休んでみるのはどうですか?
今日はすぐ近くで寄り添って──みんなと少しまどろんでいても
風邪をひいたりしないんじゃないかな──
ね、いいでしょう?

夕凪

『春のよろこび』
あたたかい季節が来て
もう、いつでもお外に駆け出して
遊べるようになった。
子供たちにとって
いつまでも終わらない楽しい時間だ。
花壇のお世話をする小雨お姉ちゃんや──
お庭へと降り注ぐ桃色の花びら。
にぎやかな声がして
もう、誰も彼もが
気持ちを抑えきれない。
仲良しの子の手を取って──
ときどきお兄ちゃんがいるときは
困らせてしまうのがわかっても
ぎゅうってつかんだ手をひっぱって
いつでも一緒にいてほしくなる。
見て!
今日も良く晴れた。
かけっこもできるよ。
つまづいて転んでも気にならない。
開いた花や遊びかけのおもちゃや
今まで見たことがなかったものを
いっぱい発見するに違いない。
そうしているうちに
体がきたえられたり
おなかがすいてごはんがおいしかったり
いいことがたくさん起こっていく──
一緒に遊んだお友達のおかげかな?
お兄ちゃんがいてくれたのが良かったんだったりして!
じゃあ──明日もお外に駆け出していかなくっちゃ。
本当は知っている。
そう、きっと間違いない。
明るい季節になって
春がやってきて、
そして夕凪たちみんなが
協力し合って
元気に冬を乗り越えて
やっとここまで来たからなのだ。
小さな子供の夕凪は
今年も春を迎える。
すばらしい──
こんな日が本当に来るなんて
あの冬の間に想像できただろうか。
まあ想像はできたけど
いっぱいみんなといられて
こんなに楽しいなんて
わかっていただろうか──?
よく遊んで、遊び疲れた夕凪には
お休みの時間が来る。
家に帰ってお風呂に入って
夜を過ごす時間が来る──
それでも、夕凪はなんともう
ずっとお外で遊ぶなんてわがままをあんまり言ったりしないのだ──
よく眠っていい子にしたら
明日もお兄ちゃんを探して連れ出して──
その時に、せいいっぱいお願いをするまで
待っている知恵がついた。
お兄ちゃん!
今日もまた暖かい日だ。
いいお天気だよ──
夕凪が呼んでいるよって
その時も、もう夢中で喜んでいるに決まっている──
そんなことは考えるまでもなく、当たり前に訪れる光景だとみんなはいう!

さくら

『さだめ』
ながいふゆがおわって
さむさのなかにすむおばけが
ひとをおそってくるのを
たたかって
おはなしをきいてもらって
おいかえしながら
ひとをまもっていたみづきちゃん。
ちからのあるもの、
ひとをまもるようにそだったもの──
そのさだめじゃ!
と、みづきちゃんはいう。
おばけがいたの?
でも、もういないから
いいのかな──?
さむいふゆはきびしくて
ひとをこまらせる。
そのつぎあらわれたのは
ホタおねえちゃん。
いっつもせんたくものが
なかなかかわかないきせつも
もうおわった。
おせんたくとおそうじがすきで
みんなのおようふくもかたづけて
そういうのがとくいだから
とってもやってみたいな!
そういっていたホタおねえちゃんも
ふゆがおわって
すこし、のんびりできる。
たたかいはおわった!
でも──
よくみると
もっといろんなおようふくをきて
かぜをひかないように
おしゃれなようにって
かけまわっている。
にこにこして
ホタおねえちゃんのきせつはこれからだ!
と、もりあがっている。
こんどあらわれた
いそがしそうなこさめおねえちゃん。
おはなをさかせたい──
しんせいかつのおてつだいもしたい。
おやくにたてること
ありますか?
ホタおねえちゃんのつくった
かわいいおようふくで。
みづきちゃんがまもった
げんきでかぜもひかない
ふゆをのりこえたこさめおねえちゃんが
ついにはるをむかえる。
さくらは、ふゆのあいだは
あそんでいたな──
はるになっても
あそぶばかりだな──
うーん、でも
むずかしいことはまだわからないさくら。
らいねんになって
みづきちゃんとおなじとしになったら
さだめをみつけだし
うんめいをしり
ちょっとやりたいことができるかも──
きょうも、はるはあたたかくて
ひざしはまぶしい。
さくらがおそとであそびたくなるようきだ!

吹雪

『春のよそおい』
暖かい季節になると
冬の間にできなかったことが
たくさん選べるようになると──
そんなふうに聞いています。
寒い時期、日が早く落ちる頃よりも
少し遠くに足を伸ばすのは
まだお姉さんになってから。
帰ってきてすぐに
お風呂に飛び込んでいたのも
今となっては通り過ぎた日の出来事──
寝る前にゆっくり温まる
心地の良い時間に変えることもできる──
そして、
寒い日はなかなか難しかった
明るい色がよく似合う
少し薄着の服。
まだ、急に肌を出すのは
いけないかもしれないけれど──
これからどんどん
今までよりもたくさんのおしゃれを
楽しめるようになるのだと
張り切っている子も多いようです。
新しいことを試してみたくて
鏡の前に立ってみて──
ついつい時間が経ってしまう。
誰かと出かけるのが
もっと楽しくなってくる──
好きな人を思うのが
どんどん幸せを増していくようで──
私もやがて大きくなったら
あの大きな鏡の前で
春になったことを子供の頃よりも喜ぶように
なるのでしょうか?
その時になってみなければわかりません。
でも──暖房のある部屋で
過ごす以外の選択肢がなかった冬よりは
自由が増えたのはいいですね。
本を読んで落ち着く場所も春になって増えていきます。
私が春を楽しんでいるのを
もしも見かけた時は──
キミがそばにいてもいいと思います。
春という季節は
それくらいの自由は。あるいは許容するのではないでしょうか──

海晴

『おでかけ』
春のお出かけはいいものだ。
なにしろ、こう見えて
新人とはいえお天気お姉さん。
頼りなさそうでも──
お散歩に出かける時間を見つけるくらいなら
自信がある。
柔らかな日差し、
気持ちの落ち着く街並みの眺め。
花開く季節を歩いてゆく──
本当のことを言えば
もう少し雲の見方に詳しくなって
誰かと並んで少し遠出──
安心してキミをいい景色のところへ連れて行く
春の日をたっぷり使えるお楽しみなんかも
やがては期待したいところなのだけど、
短時間にとどまらない正確さを求めると
ベテランの気象予報士でも難しいと聞くから──
よく晴れた日も
ときどきは、冷たい風。
急に強く吹き始めたら怖いものね──
春が来たっていうのに
一人で歩いてみたり
誰かを誘っても
すぐ帰って来る予定のルートだったり。
お姉ちゃんだから
あまり、まわりに無理もさせられない。
いや、たまには
まあいいかって思い切った予定を考えたりもするけど。
こう見えて──自分では慎重なつもり。
こんな海晴を
春の景色の中に大胆に連れ出していく
ステキな人は現れるのだろうか?
ちょっと心配性なところが
お姉ちゃんに似ているかな?
でも──ああ見えて
かわいいようでわがやの長男。
手をつないで道を歩いたら
帰るのを少し遅らせて
寄り道をしようなんて言ってくれても
ちっとも不思議じゃないはずだ──
出会いの季節に
キミのまだ見たこともない顔を
知ることができたらな。
そんな期待をして短い散歩に誘う毎日──
お姉ちゃんの言うことをよく聞いて
一緒にいてくれる弟クンは──
うちの自慢のとってもいい子だ。
少しだけお天気に詳しいお姉さんは
風が冷たくなるのを知っていて
ゆっくり歩きたい帰り道も見つけてしまうのだ──