綿雪

『ハロウィン』
10月31日はハロウィンです。
黒い帽子と魔女の服で
夕暮れを歩く子供たち。
はしゃいだその姿の中には
よく見ると見慣れぬ
かぼちゃの頭の子供が!
こんな日は
世界のどこかでそんなふしぎなこともあるみたいですが
今年のユキたちの家は寒くなったらおうちに戻って
みんなでお料理の準備を手伝うハロウィン。
女の子がいっぱいで
みんなかわいいものが大好きで
お姉ちゃんのお手伝いをするのは、好きな子とちょっと苦手な子と……
でも、集まって何かをするのはとっても楽しい──そんな子ばかり。
昨日までに決めておいた仮装に
着替えを始めるのは
ちょっとだけがまんして
もう少し夜が更けた後──
星の瞬きだけが明るい夜が
おばけの時間なのだそうです。
だからそれまで
がんばってお料理を作ろう。
夜、影が包む変身の時間が来て
すてきな魔女になれるのは
ちゃあーんとお手伝いができた良い子だけです。
そういう決まりなの。
だからユキなら──
きっと、すてきできれいな魔女のお姉さんに変身できる。
お兄ちゃんだってそう思うよね?
本番を迎える前の
待ち遠しい──
でもちょっとあわただしい時間。
落ち着かなくてそわそわして
でもユキは
聞いたことがある──
いつだったか、
誰の声だったのか。
それは今日みたいにおばけが来る日に
お部屋に忍び込まれてしまったのかもしれないし
もしかしたら……
耳を澄ませて目を閉じたら
今も聞こえてくるような
やさしいその声を覚えています。
だから、ユキは知っています。
楽しいことって
準備のときがあるから楽しい。
ううん、いちばん楽しいのは準備の時間なのかもしれないと
そうつぶやいた声──
いたずらをたくらむおばけが近くにいたのかもしれませんね。
あれはクリスマスの日を待つ
星が輝く夜だったような気がする──
まるで今日こんな夜みたいに。
だからたぶん
お手伝いをするのにみんなが集まっていると
不思議と楽しい、
本番がやってきたみたいに楽しいのは
そういうふうに決まっているものなんです。
お兄ちゃん、お手伝いが終わったら
魔女に着替えたユキを見てね。
今日のために用意した
ハロウィンのおばけのまちがいさがしもあるの。
どんなわからない謎があっても
ユキがたちまち解き明かしてしまう──
魔法の力が小さな手のひらにも宿り
ユキとお兄ちゃんのすべての願い事が叶う
そんな夜は必ずやって来る。
今日がそうなのかはまだわからないけれど
必ず──
ユキとお兄ちゃんのいる、この家に魔女の夜が来る。
そのことを
決して疑ってはなりません。
来年もそのあとも
楽しいハロウィンの夜を迎える
この家で。
あとで撮る予定の記念写真は
みんなが揃ってからの約束なの。
いつまでも大事にとっておくんだよ。
その写真を見るたびにユキは
カメラに写らないままの
楽しかった時間やお兄ちゃんと遊んだ遊びを
不思議に思い出すのかもしれません。