『ダークライド』
明日はハロウィン本番。
言われてみれば街はどこか
楽しみにしているみたいにソワソワしているような気もするし
こころなしか家の中は
かぼちゃの匂いと
仮装の準備らしい色とりどりの布でいっぱい。
ここにあるつばの広い帽子に鳥の羽、
それから見渡す景色のどこかに埋まっている
真っ白で汚れのない手袋とタイツが
私が衣装合わせをしてきたうちの最終候補。
蛍姉さまが急に思いついて徹夜でも始めない限り
私の衣装は気高くサーベルを悪に向ける
凛々しい剣士になると思うから──
今夜は一度くらい
蛍姉さまの部屋の様子を調べたほうがいいかもしれないわね。
今年は着る人と衣装のギャップが面白いのを
選んだというから
立夏ちゃんは砂で汚れたホルスターを腰に下げる無法者ではなく
和の美しさをたたえたゲイシャガールで準備をしているようだし
小雨ちゃんは──まあ見つけても深く追求しないであげて欲しいの。
というわけで
将来はお固い鉄道関連のお仕事を目指していて
お固くまじめな電車といられればそれでいい
コスプレなんて軟弱な文化を嫌う私が
基本的に派手さ優先となれば定番のひとつとなった
この服を任されたということになる。
それにね、小道具としてであっても
振り回したら危ない剣を身につけるなら
分別があって、そうそう調子に乗ったりしない
私がベスト。
そういうふうに聞かされたものだから
しかたないの。
秋の澄んだ大空へと正邪を問うように掲げる剣は──
ずっしり重い拳銃より決して武器だけに頼れるほどの力はなく
もっと昔に人類の霞む曙光の中を共に切り開いた棍棒ほど
野性に身を任せることなく。
手にしたものが与える力は
ただ、自分が信じるもの。
正義──
勇気──
天から暖かく見つめるまなざしで
私たちを守る神への信仰──
純白の正しき心。
この家族では私しかできない
そういうコスプレなのよ。
知らないけど。
でも同じ剣を構える仲間として
黒い布を仮面にする義賊の星花ちゃんとは
こうやって剣を合わせて友情を誓うといったようなことは
やったほうがいいのかしら、
それとも設定的にまずい気もする……
ううーん、とりあえずその場の雰囲気次第ね。
正義の味方がゾンビやイモムシに襲われていたら
私は危ない剣をしまってから戻ってくるので
星花ちゃんに頼られているあなたが行って助けてあげてね。
おばけが襲い来る日も──
悪者をやっつけるか、無理そうなら急いで逃げて隠れた後に
正義の行いには敬意を評する必要があるのだから。