星花

『準備開始!』
首をすくめて
襟を立てたりしながら
それでも、風で揺れる枝を眺めて
学校の校庭で
枯れ葉が舞う家の庭で
動いてみたら簡単に
あったまった気分になれる
お手軽な子供たち。
お姉ちゃんたちは感心して見ているけれど
ただ、ちょっと
寒さをこらえて駆け出したら
夢中になってしまうだけなんだもの!
いつも元気で抑えがきかない私たちの放課後は
人数が多すぎて
揃って落ち着く瞬間もないみたいで。
静かにしていると思った夕凪ちゃんが
プランターで肩を寄せ合って開く紫色の花を
指でつつこうとして
そんなふうによく、星花が止めに入ったりもします。
私たちと違って
小さな花は何をしてもそう簡単には飽きたりへこたれたりしないほど
強くはないですから
できるだけ
守ってあげられたらいいですよね。
夕凪ちゃんはすぐにあきらめることはないけれど……
今日は別のものに興味を引かれているみたい。
カレンダーの前を通り過ぎるついでに
昨日よりも一日分だけその時へ進んだ日付を確認すると
甘い匂いが漂いはじめたキッチンに近づいて
調理と片付けの一部始終を観察し
覚えようとする──
バレンタインデーのチョコレート作りの技を盗もうとします。
ぴょこぴょこ跳ねている夕凪ちゃんの横に
星花も並んで
春風お姉ちゃんがこちらを気にして
ゆっくり動く手元を見せてくれるのも
二人で覚えようとしているうちに。
普段から食べる専門で名が知られる夕凪ちゃんの周りには
心配そうに声をかける氷柱お姉ちゃんや
吹雪ちゃんもマリーちゃんも近づくの。
かちゃかちゃ鳴る調理器具の音より
外野の声がにぎやかになるのは──
たぶんはじまりを告げる声で
まもなく本番の舞台が近づく前触れ。
今年は、お手伝い常連のマリーちゃんたちも
夕凪ちゃんのお菓子作りの指導を協力してくれるそうです。
心強い味方が増えましたね。
まだぜんぜん安心とまでは言えないけれど
そわそわする雰囲気がしてきたら
腰を上げて動き出す子供たちが
集まりだす頃です。
話をして、次の土日に試作をすることになりました。
バレンタインは
何度迎えても
はじまる前の胸の鼓動に慣れないものですね!
汚れても良さそうな
動きやすくて
でも気分の問題もあって、できればかわいい服を選んで
修行の時に備えます。
キッチンが空くまでは、知識をたくわえて計画を練るお仕事が中心。
食べてみたいチョコレートと
お兄ちゃんにあげたいチョコレートと
華やかでかわいいのを混ぜ合わせて
私だけのチョコレートに!
どこにもないこれから作る理想は
さすがに今年はまだ無理なのかなあ?
希望はどこかで妥協やあきらめに変わるのか、
それとも、もしかしたらあわよくば?
今これからが試行錯誤のときです。