グリモア
お庭を歩いていた黒猫を
見かけなくなってからだいぶ経ち──
ハロウィンのおやつを用意しても
子供たちがお歌で誘っても、
街に三角帽子をかぶった仲間たちがあふれても
ちっとも見なかったこのごろ。
鼻筋の通った美人のあの猫を
ママは昔から見慣れていると言って、
またすぐになんでもないように顔を出すんだと
自分のことのように胸を張っても、
私たちは顔を見合わせるだけ。
それがやっと
暖かい陽の差したここ数日のおかげで
効用の木漏れ日の下を横切ったしなやかな姿が目撃され、
遠くまでよく通るあのどこか甘えるような響きの鳴き声さえ
聞いたという子があらわれて
蛍は散歩に歩くついでに
魚の頭の残飯を用意して
のどかな陽気の中を歩いているのだけれど──
ママが言っていたように
いなくなったと思ったらまた顔を出す
魔法の様な生命力を持った猫だったのだとしたら
あの世とこの世がつながった夜に
仲間と街を歩いて
もしかしてそのまま夜の国へ
帰ってしまったということも
ありうるのかも──
あるいは、怪しい力を使って
あたかもはじめから私たちの家族が
お兄ちゃんといっしょにいたい19人のきょうだいだったように
思わせて──
その中に潜んでいるのかもしれない。
ううん、これだけ女の子がいたら
一人くらいはもともと
不思議な力を持っている魔物で、
にぎやかなおうちに楽しそうだと入り込んだ可能性だって
あるのかもしれないです。
まるで自分ではないの事のように
一体誰が──?
なんて言い出す子が
特に怪しいのは定番ですね。
お兄ちゃんも、まるで親しい使い魔を探すみたいに
奇妙な振る舞いをする子がいたりしたら
ちょっと注意して様子を見てもいいかもしれないですね。
お鍋に色んな隠し味を入れて
術をかけようとする瞬間をとらえることができるかも!
それにしても、あの猫は一体どこへ行ってしまったんだろう。
暖かくて過ごしやすい
優しい季節。
こんな日にお庭を歩くのは──猫でなくたってとっても幸せなはずなのにね。