『プレスリー生存説。ボルヘス生存説。マウント斗羽生存説。』
「兄や様。今年の亞里亞様に用意したプレゼントですが、並行世界を移動する機械を作り出すことに成功したので亞里亞様にお好きな世界を見つけてもらうことになりました」
「なるほど、また亞里亞が増えるSSか」
当の亞里亞は白雪が作ってはどんどん運んでくるケーキの試作品をほおばって幸せそうにしている。今年もギャグSSだからもちろん全部食べつくすのだろう。よかったね!
「亞里亞様が探すのであれば、お菓子の国などいいかもしれませんね」
「うちの亞里亞なら消化力の心配はなさそうだからね」
「あるいは、まだシスプリが続いていて亞里亞様と兄や様のお話がたくさん出ている世界などもいいですね」
「じいやさんがちょっと亞里亞の味方というより兄やのポジションになってきてない?」
亞里亞の話がたくさんある世界と言っても、穏やかなエピソードもあれば先日のライブのようにキレッキレのダンスが見れる場合もあるのだろう。
「というか平気で並行世界の壁を越えちゃって大丈夫? 何か問題とか発生しない? 亞里亞が危険に陥る心配はギャグSSだから大丈夫だと思うけど」
「亞里亞様に喜んでいただくためなら多少の無茶は覚悟の上という結果になったようです」
関係者全員が亞里亞のためにガッツを知りすぎてる……
「並行世界は理論上無限に存在するので、中には亞里亞様が軽快にダンスをする世界もあるでしょう。楽しみですね」
「それは亞里亞と僕たちがいるこの世界だね」
僕も先月のライブまでは、そんな世界だったなんてあんまり考えなかったよ……バレンタインの亞里亞もかわいかったけど、さらに鍛え上げてきたよ……今のVTuberの表現ってすごいね……
「そうか……亞里亞ちゃんと並行世界の旅とは……兄くんもついにその時が来たか……」
「千影は前から並行世界の旅をしているみたいな言い方。いや、しかし妹にからかわれるのも妹ものの定番だな。亞里亞だけじゃなくてシスプリではあんまりない展開だから明日のべびプリ日記は氷柱にでもしようかな」
「まだハロウィンの話が続いている日記か……かぼちゃ料理や……もらったお菓子を……食べきれない展開もありそうだね……亞里亞ちゃんなら必要のない心配だが」
ギャグSSの亞里亞だから食いしんぼうとか、それで済ませていい話じゃない気もしてきたぞ。うちの亞里亞だいじょうぶ?
そんな話をしているところに、可憐がお誕生日のお祝いに来てくれたようだ。
「お兄ちゃん、ユーフォーユーフォーです」
「ははは可憐、ハロウィンの続きなら、そこはトリックオアトリートだよ」
仮装をして学園祭のミスコンでコスプレした霧賀ユキ先生イラストの宇宙人っぽい吹雪みたいになっている。ポワポワした光線が出そうな銃まで構えて本格的だ。
「並行世界から可憐はお兄ちゃんに会いに来たんです。可憐は宇宙人の可憐!」
「今日のSSはそういう感じなのか。それにしても可憐は宇宙人になってもかわいいね。これからは可憐のことを思いながら一生を過ごしていこうと思う。もう可憐以外のことは考えられない。ところでその光線銃を人のほうにむけるのやめない? なにか問題のある効果が出てる気がする」
「可憐ちゃんは……宇宙人か……実は……私も魔王の娘だと……兄くんに告げる運命の刻が来たようだ……」
「まあ初めてその設定を聞いた時はびっくりしたのは覚えているけど」
「並行世界の花穂だよ! お兄ちゃまを応援するためにアイドルになって歌って踊ってるよ! がんばれがんばれお兄ちゃま!」
「だいたい先日のライブの花穂だね! この世界の花穂じゃん! ありがとう! かわいかったよ!」
この様子だと、可憐のほかはあんまり変わったことにはならないかもしれないね。衛もちょっと運動を張り切りすぎるくらいなのかな。
「あにぃー!」
「ほら遠くから大きな声で、って、ずいぶん遠くから、しかも馬に乗って駆けてきたね。かなり運動方面を強めにした衛だね」
「あにぃー! 並行世界から鬼退治にやってきた衛だよ! 悪い子は何でもやっつけるよ!」
「あんまり変わらないだろうと思ったのは間違いだった。思った以上に強そうになったね」
「がんばれがんばれ衛ちゃん」
「でも咲耶はまさかそこまで変わったりはしないだろう」
「私はすべての並行世界を愛で満たすことを目的とする女神、咲耶。さあお兄様、愛のために祈りましょう」
「うーん、まあだいたい変わってないでいいか(現実逃避)」
「愛のためにお兄様の願いを叶えましょう」
「亞里亞のBDSSだから何か喜ばせてあげたいな」
「はい亞里亞ちゃん、おかわりですの! ケーキはまだまだありますのよ。にいさまも食べて!」
「わーい」
「すぐ願いを叶えてくれたね」
「私は愛の女神咲耶……まだ何もしていません」
白雪が張り切っているだけだった。
「じゃあシスプリが続いている世界をお願いしよう。あとベビぷりも、それからスーパースターの二期もください」
「ふむふむ、お兄様は私と永遠に結ばれることを望むのですね」
「まあだいたいそうかな……(現実逃避)」
じゃあ後のことは咲耶に任せるとして()、順番にやって来るなら次は雛子かな? VTuberの時には会えなかったから久しぶりだなあ。楽しみだね。
「わーい、おにいたま! ヒナはげんき! この世界でも元気に暴れて、破壊するためにやってきたよ!」
「やったー……」
雛子があいかわらず無邪気でよかったよかった。
「あいぃ、下がって! 雛子ちゃん覚悟っ! えい!」
衛ー!?
「やられたあー」
雛子も軽いね!
「私は愛の女神……雛子ちゃんがまた生命力であふれるように力を与えましょう」
「がんばれがんばれ雛子ちゃん、がんばれがんばれ咲耶ちゃん」
「では私も……魔界の娘の力で何かしよう……」
千影はいつもの通りだね。でもやめてね。あと可憐は雛子に光線銃を当てて何をしているの? 元気になっているみたいだから回復効果? いやあ、今日は元気を与えてくれる妹がたくさんの日だなあ。亞里亞も食べてるところを見ているだけでかわいくて元気をもらえるからね。じいやさんも喜んでニッコニコで見ているね。じいやさんそういうキャラだったっけ? 実は並行世界のじいやさんでラスボスだったみたいなオチじゃないよね?
そして毎年ラスボス疑惑が出る鈴凛だけど、たぶん空を無数に飛んでいるメカ鈴凛軍団に関係していると思うのでもう何も考えないことにしよう。
この様子だと鞠絵がどうなっているか気になるな。きっと病気も治って必要以上に元気になっているパターンだな! 誰かのお誕生日のお祝いのSSなんだから悲しいことにはならないはずだ。昔書いていたSSのこととか思い出せないな。なんのこと?
「兄や様、鞠絵様から手紙が届いたようです」
「て、手紙か……いや、まだ体調が戻っていないと決まったわけではない。鞠絵がこれから着くという連絡かもしれないじゃないか」
「兄上様、わたくしがどうしましたか?」
「もう来ていた」
「わたくしとしたことが恥ずかしい……もうすぐ着くという手紙より先についてしまうという元気キャラあるあるをしてしまいました」
「どうやら元気キャラになったみたいでよかった」
「白雪ちゃんのお料理をつまみ食いしてキッチンを追い出されるあるあるもしてしまったんです。いくらなんでも、自分の体より大きいくらいのお料理なんて元気キャラでも食べきれるわけがないのに、白雪ちゃんは心配性ですね」
うん……亞里亞はテーブルの上に天井まで積まれたケーキに今も目を輝かせている。きっと食べ盛りなんだね。
「あるいは並行世界の亞里亞と入れ替わっているというオチ……いや毎年あのくらい食べてるな。まあかわいいからいいか」
白雪はちょっと張り切るかわいいコックさんの方向みたいだし、そろそろ春歌と四葉もやって来るかな? 春歌はどんな変化があるか予想できないな……それにしても可憐のことしか考えられないな……ちょっとその光線銃向けるのやめてね。
「あ、そこに作ってある御簾の向こうにいるのが春歌かな。おしとやか方面で来たね。えっ手紙? なになに……ケーキおかわり……えっこれは違う? 間違えた? おしとやか方面ではなかったみたいだね」
いい香りも焚きしめているようで、和風の感じがしていいと思う。ハロウィンの続きで和ホラーを打ち出してくると怖いからなくてよかった。春歌はもうそんなに子供じゃないか。
「がぶり」
「うわー!」
「わあー!」
後ろからかみついておどかしてきた四葉のほうが驚いていた。
「その吸血鬼衣装……並行世界から来た吸血鬼四葉か!」
「フフフ、だまされたデスね。ただのかっこいい仮装をした四葉デス」
「まあわかっていたけど。悪霊退散悪霊退散」
「兄チャマを驚かせる変装のテクニック、やはり四葉は名探偵ね!」
「まあいつもの四葉だけど……変わり者だし今回のテーマに合ってるかもしれないからこれでいいか」
「ひどいような!?」
遊んでいたらなんだか急に背後から寒気が……こ、これは楽しそうなのをうらやましがった春歌の生霊が御簾から出てきている……そういうのないって言ったじゃん……言ってないか。
「しかたないな、よし春歌も遊ぼう! 悪霊退散悪霊退散」
四葉とキャッキャ楽しそうな春歌の生霊だ。やっぱり仲がいいのが一番だね。なんで咲耶が後ろで苦しんでいるの? 本当に女神なの?
それにしても外が騒がしくなってきたね。メカ鈴凛が次々撃ち落されて庭に積み重なっているね。ええー!?
「ついに……魔界からの侵略が……はじまってしまった」
「あれ、千影の設定がちょっと違うほうに進みはじめたぞ」
「だから……さっき言ったはずだ……」
「うん、僕を魔界に引きずり込もうとするくらいだと思っていた」
「まあ……引きずり込むのもするけれど……」
「まあそうだろう」
それにしてもこれはどうするんだろう。可憐が光線銃で対抗しているけれど限界があるようだ。いや対抗できるのすごいな可憐。
咲耶はまだ倒れているし、雛子はすっかり敵の軍勢の一員だ。頼もしいのは衛と応援が得意な花穂だけ……花穂は特になにもしていないとは言わない。亞里亞のテーブルニはまだまだ料理が並ぶ。このお誕生会を邪魔させはしない! あと食べすぎ注意!
「アニキ! ああ間に合った」
「鈴凛!?」
「メカ鈴凛が並行世界で改造されて反乱を起こしてしまったの。この危機を乗り越えるために開発した、押すだけですべてが解決するスイッチがついにできたよ!」
「便利なメカだな!?」
「私たちの世界では普通だよ?」
「そんなだからすぐ反乱を起こされるんじゃないかなあ」
とにかく、よくやった鈴凛!
「すぐそのスイッチを押そう!」
「でも、これが押せるのはアニキだけなの!」
「なにかよくわからない設定があるね!?」
「フフ……兄くんは渡さない……」
千影を阻止する可憐。ありがとう! 一生愛してる! あっ光線銃はこっちに向けないで! いやそれがなくても一生愛してる気はするけど!
「よし、押すぞ! ポチっとな」
『アニキ、おこづかいちょうだい』
「ああっ、しまった! これは別のメカで、押すだけでアニキにおねだりできるスイッチだった!」
「それ開発する意味あるの? 本物はこっち? よし、ポチっとな」
『リーチ!』
「押すだけでリーチを宣言できるスイッチだった!」
「意味あるの?」
『アニキ、遠くに行った私の代わりにメカ鈴凛を大事にしてあげてね』
「これは必要なやつだな……いや鈴凛は遠くへ行ったりしないから必要ないよ! お誕生日にそんな悲しい話はしない! 昔のことは覚えていない!」
まあそんなこんなでいろいろあって解決したのだった。
「兄上様……亞里亞ちゃんが楽しそうなお誕生日でよかったですね。私も来年までには元気な体になるようにしないと……」
ちょっと切ない話もあったが。
「やっぱり並行世界なんて行かなくても、いつもの日常が一番という定番のオチだね」
シスプリが続いている世界にはまだちょっと未練があるけれど。
「でもじいやさんも外の戦いの後の掃除が大変そうだね」
「いえ、隅に出来た大穴に片付けるだけですので」
「大穴出来てたんだ……やっぱり魔界とかにつながってるの?」
「物質を同じ質量の食材に変換する機械の製作に施行したので白雪様のところにどんどん運んでいった後に空いた穴です」
「ちなみにその食材で作られたものって……」
鞠絵じゃないけれど、来年までには亞里亞の食いしんぼうオチのほかに何か考えられるようにしておきたいと思った。