亞里亞BDSS

スペシャルサプライズパーティー・スピニングスピニングノンストップスピニング』
 亞里亞の誕生日だ。
 まずクラッカーを鳴らしながらお祝いをしたら亞里亞は驚きすぎたのか、あるいは死んだふりをして身を守る的な意外と野生のあれなのかすっかり固まって動かなくなってしまったので、僕が時間停止の能力に目覚めたのでないことだけはぱたぱたせわしなくまばたきをしていることで明らかになったのである。
 じいやさんが飲み物を持ってきてくれたおかげで落ち着いたようで、今はどうにかスローモーション程度の動きに戻って、空になったクラッカーを不思議そうにじっと眺めている。ときどき恐ろしそうに体から離したり指を入れたりもする。興味はあるようだ。
 亞里亞のことを考えると、景気付けとかみたいな派手なのとかは別にいらないのかな? と考えている。すると遠くから声が近づいてくる。どうやら玄関のほうからだと思う……亞里亞のお屋敷が広すぎて方向を判断しにくいけど、そういえば今日はみんながお祝いに集まってくるのだ。たぶんそれなんじゃないかな。クラッカーは先に注意しておいたほうがいいかなあと思ったが、じいやさんの案内の声と可憐と花穂のお礼と一息つく間とせーのの合図があって
「ハッピーバースデー亞里亞ちゃん!」
「おめでとう!」
 タイミングは合っていたけどお祝いの言葉は揃わなかったみたいだ。ともかくやっぱりクラッカーの音で亞里亞は今日ふたたび石となってせわしなくまたたきをした。今回はこういうくり返しSSなの?
 お祝いに駆けつけた二人は歌を歌って亞里亞の周りをぐるぐる踊る。亞里亞が完全に停止していることはうれしい日なので今はそんなに気にならないらしい。まあいつも大人しくて、変わらないようにも見えるもんね……二人とも踊りが得意になったのは最近のお兄ちゃんの趣味が影響を与えているのかもしれない。花穂は足元がちょっと危なっかしいので気をつけてね。今日は花穂SSではないから転倒して支えてからのいつもの展開が間に合うかどうか難しい。本日の主役の亞里亞はそんなに主役っぽくない、おおっなんだなんだという感じの表情で、動きはスローモーションに戻って僕のところまでそろそろと歩いて逃げてきた。踊る二人の陽気な輪は移動しながらついてきたから僕もお祝いされているみたいになった。
 まあクラッカーも大きな声のハッピーバースデーも亞里亞には少し刺激が強すぎるかもしれないけど、楽しい出来事の始まりにはちょっと驚く仕掛けもやっぱりいいものって感じもするね。たとえばダンスタとか。亞里亞も危なっかしい踊りを見つめている。でもタンスの扉を開けて近づき、写真を撮って撮って撮りまくる四葉は特にサプライズを意識しているとは思えない自然な動作だ。四葉何してるの?
「兄チャマの視線をキャッチです! あのね、四葉はこの後で亞里亞ちゃんにサプライズプレゼントにアルバムをチェキするためにじいやさんに頼まれて、今日はいっぱいお写真を撮ってもいいってお許しをもらえたのよ」
 これもサプライズではあるらしい。ばらしちゃった。そしてやっぱりタンスに隠れていた行為は人の心臓に悪いわりに別にサプライズではなかったようだ。ばいばいをして普通にタンスに戻っていく。入っていく時に奥のほうから「ようこそ……闇が両手を広げ招く胸の中へ……逃れることのできない永遠の夜へ……兄くんの幻影といつまでも共にある安らかな夢の中へ」とか声がするけど四葉は特に気にしないらしい。そもそも誰も気にしている様子がない。あれって僕だけに聞こえているわけじゃないよね。みんなも慣れてきたってことだよね?
 しかし待てよ、このままの展開が続いたら鈴凛はクラッカーメカを持ってくることになるぞ。ちょうどメールが届く音が鳴る。こ、これは大変なことになりそうなら止めないと!
『アニキへ。今日は亞里亞ちゃんを驚かせる発明品を持っていくからね』
 だめだ鈴凛
『なんと、歌に合わせて明るく踊るマシーンができたよ!』
 そっちなの! よかった……お兄ちゃんの趣味が影響を与えていてよかった……あと毎週土曜が楽しいからよかった……こちらは次回まだかなーって待ち遠しすぎるのが大変だけど。
「兄君さま、お久しぶりです。亞里亞ちゃん、お誕生日おめでとうございます!」
 春歌も来たんだね。音を立てずに近づくしとやかさはさすが大和撫子の修行のたまものだ。別にギャグSSでいう剣の道を極めるとか身を守るのが行き過ぎてアサシンクラスに近い感じがするとかはあまり関係がないと思う。
亞里亞ちゃん、ワタクシからのプレゼントです。亞里亞ちゃんも兄君さまをお守りできる立派な乙女になってください」
「わーい! 春歌ちゃんが刀をくれるの! ありがとう」
 亞里亞は怖がりなんだから本当にやばいときなどをもう少し判断できるように早く大きくなれるといいね。あと春歌は今回がギャグSSだったとあんまりしみじみわかる感じになりたくないのでもう少し考えを改めてもいいと思う。
「あら間違えてしまいました。プレゼントはこちらのクッキーです。たくさん食べて立派な体を作ってくださいね」
 そうだよね! 春歌はやさしいところがあるってわかっていたよ!
「兄君さまを命に代えても守りたいと思うあまりについ刀ばかりに気を取られてしまいました」
 よく考えたら刀を持ち歩いているのもおかしいからもう深く考えるのはやめておこう。世の中にはそういうSSもひとつくらいあるよ。世界は広いよ。広すぎる場所に投げ出されてしまったのはもう受け入れるようにするよ。
「では、ワタクシは、白雪ちゃんのお手伝いを約束していますのでまた……」
「そうか、楽しみにしてるよ。白雪をよろしくね」
 さっきからキッチンの方角で、いつもの元気な白雪の妄想を抑えきれないっぽい思われる声が聞こえてきて亞里亞がたまにそっちに顔を向けておおーってなっているよ。ずっと昔はまだびっくりしていたけれど、今は白雪が来るとおいしいものがたくさん出てくると覚えた。白雪の声で「きゃー!」という声が聞こえたら亞里亞はそちらに向かって顔を上げ、「ですのー!」と聞こえたら顔を上げ、「うひゃー!」と聞こえたら顔を上げ、「たいへーん!」と聞こえても顔を上げ、「ダイヤッホー!」と聞こえても顔を上げる。BDをかけながら作っているの。たまに空き時間もあるみたい。亞里亞がBDを見ながらよだれを垂らすようになる日もまもなくだ。
「可憐もお手伝いさせてください」
「花穂も!」
「じゃあヒナもー!」
 雛子は部屋に入ってきたばかりでよくわかっていない。ちょこちょこ元気にそこらじゅうを走り回る。
「おにいたまー! どーん!」
 今日も元気に全身でぶつかってくる。ん? あれ? 青空だこれ!? ごめん雛子……お兄ちゃんがたまにしかシスプリSSを書かないせいでかわいいところをあまり出せなくて……
「お誕生日おめでとう、亞里亞ちゃん! どっどっどっ! ずっどどーん!」
 わー! 亞里亞のほうにもぶつかっていく……と思いきや、途中で減速してぎゅーっとする気配りを見せた。やっぱりこう見えても少しはお姉さんなんだろうと、僕のほうには容赦なく全力で何度もぶつかってくる衝撃を感じながら考えた。
 まだみんながこれから集まってくるんだけど、庭のほうで大きな動きをしている何かを見つけた。玄関から入ってきたらいいのに、どうしたのかな。あれは衛かな……様子を見に外へ出て行く。亞里亞もスローモーションでついてくる。……いや、わりと平常心に戻った気もするけどあまり区別がつかないかもしれないが、なんとなくいつものゆったりした動きに近い感じでついてくる。雛子は駆け抜けて行き過ぎたり戻ってきたり歌ったりしながら、これはついてきているというのかな? まあ、近くを離れないでいる。
「あっ、あにぃー! ボク、鈴凛ちゃんに頼まれて機械のパーツを運んであげたんだよ!」
 と、体より大きい鉄の塊を持ち上げて見せた。ごめん衛……ギャグSSばかりであまりかわいく書けなくて……
「ここまで運ぶのは大変だったけど、やっぱり体を動かすのはさわやかで気持ちがいいね!」
 それでいいんだ!? 衛がいいならいいのかな? うーん……どうなんだろう……
「でも、あにぃはいつだってもっとすごい力持ちで、ボクなんかぜんぜんかなわないよね」
 確かに衛はときどきそういう感じだけど、なんだか僕の筋力がえらいことになってきている。そ、そうだね、男の子だからね。がんばるよ……
「また二人でいっぱい体を動かして……これからも遊んでくれるかな」
「もうこうなったらしょうがない! もちろんだよ衛! なんでもつきあうよ」
「ヒナもー!」
「雛子も!?」
 一方、亞里亞鈴凛の部品をおおーって感じで眺めている。えっ、いいの? 鈴凛はわりと失敗も多いよ?(失礼)
「この部品で何ができるんだろう?」
「もちろん、楽しく踊る機械よ」
 鈴凛が追いついてきた。手持ちのカバンは荷物で膨らんでいる。
「僕が運ぶよ」
「えっ……アニキ、ありがとう」
 衛の視線がつらい。
「しかし、いっぱい部品が必要になるんだね。こののこぎりは踊るときにどんな役割を?」
「いやそれは材料を切るためよ」
 そうか……そりゃそうか……よくわからないから物騒な部品ばっかりに見えてちょっと怖い。
「ヒナが切るー」
亞里亞もー」
「よしよし、順番ね」
「ボクは不器用だから……えへへ」
「ううん衛ちゃん、やってみないとわからないよ」
 鈴凛はいいことを言う。
「私だって何が作れるのかよくわかってないんだから」
 ちょっと待って。
「そういえば今から製作するみたいな話になっているけど」
「えーと、まあ、なんとかなるって!」
 亞里亞はまだ部品を見ておおーってなってるけど本当にいいの?
「いざとなったら私が踊る覚悟で……」
 そ、そこまで覚悟を決めてきたのなら何も言えない……
「ヒナもー!」
亞里亞もー」
 誰のための誕生日プレゼントなのだろう。楽しそうだからいいのかな。
「そうか、その手があったわね……ということで、ちらっ」
「えーと……ほらボク不器用だし」
「大丈夫よ衛ちゃん、死なばもろともよ」
 さっきと同じような流れだけど何かが違う。
 鞠絵からもメールが届いた。そろそろ到着するそうだ。だんだん全員が揃ってきたな。
「となるとあとは、あとは……一番わりと大変でとんでもない妹が最後にやってくるような気がするぞ」
「……そうか……待っていてくれたんだね」
 上からなのか、それとも右と左のどちらかなのか聞こえてくる方向が全くわからない声が響いてきた。
「でも千影はどちらかというと最初からいるような……いつでも見られている気がするというか」
「……兄くん……そうか……二人はいつも離れられず結ばれているんだね」
 そうなるのかな?
「そろそろ出てきてみんなにも顔を見せてあげようよ」
「わかったよ……ふふ……兄くんの一番が私でないのは残念だけど……いつか……」
 その声はだんだんと移動し、お屋敷に近づいていくと、壁の見た目はどこも変化がないのに、そのあたりからドアがゆっくりときしみながら開く音、重い蓋をするように閉じた音がする。まあ考えてもしょうがないからもうそのへんはいいか。というか、一番って言っても一番とんでもないって話だからそんなにたくさんいなくてもいいと思うんだよ。あとなんで可憐は玄関のほうから何か呼ばれたような気がするって顔で見ているの。
咲耶もそろそろ来る頃かな?」
「お兄様ー!」
 ものすごい速度で走ってくる足音の後、二つ結んだ髪をかわいく振りながらまったく遠慮のない衝撃がぶつかってくる。あれ!? 青空だこれ!?
「会いたかったわ、お兄様! 亞里亞ちゃん、今年もお誕生日おめでとう」
「うん! 亞里亞も兄やに会いたかったの」
 よくわからない会話が成立しているようなすれちがっているような。
「兄上様、会いたかったです!」
 遅れてやってきたけれど、今日は元気な鞠絵が勢いをつけて飛び込んでくる。青空だこれ!? え、鞠絵も!?
 そのうち亞里亞もえらい勢いをつけて走ってくるのが得意になるのかもしれない。
 こうして12人の大人数が揃うと、やっぱり大騒ぎになる。
 そんなに驚くようなことをしようとしなくたって、ただ集まってお祝いしたい気持ちを持ち合うのが、何よりも一番喜んでもらえているのかな。
 普通に誕生日を祝えるのはうれしいことだ。別のSSのアイデアだと、今までよく亞里亞が増えてうれしいなっていう内容ばっかり書いていたこともあって、月から衛星と同じ大きさの巨大亞里亞型花火を打ち上げるために飛び立った宇宙船のデータをたまたま通りがかった宇宙人が解析し、毎年亞里亞の誕生日には亞里亞の形をした流星が数え切れないほど地球上に降り注ぐ自然現象が起こるようになったという話もあったという。普通が一番だね。
「お兄ちゃん、見てください。天気予報だと、今年も亞里亞ちゃん流星雨はいつものように世界中できれいに降り注ぐのですって。よかったですね!」
 そっちはそっちであるのかよ。
「それに兄くん……今年も……時間の地獄に閉じ込められ、時間の流れで失われたあらゆる瞬間の亞里亞ちゃんが、時間の流れが変わったために再び現れて押し寄せてくる時空ハロウィンも起こるそうだよ……よかったね……」
「なにそれ!? 知らないよ!?」
「うん……さっき私がそういう現象が起こるようにしたから……」
「じゃあ今年もって表現はおかしいじゃん!? 楽しそうだけど! うれしくなりそうだけど! 亞里亞もおおーって感じになってるのはなんでなの!? 今年もにぎやかでよかったね!? まあいいや! お誕生日おめでとう!」