観月

『子供向けの怖いお話』
花子さんや口裂け女
人面犬──
夏も盛り。
寝苦しい熱帯夜を
背筋も凍るようなぞっとするお話で
やっと乗り切っていこうと
みんなの間では怪談が大はやり。
たとえば──
確かに残してあったはずのおやつが
どこかに消えてしまった。
不思議に思っていると
口元に食べかすが付いていると言われる。
いつのまに──?
といったような、
あまり厠に行けなくなるなんてことが
ないくらいの
ちょっと謎めいた
かわいいうわさ話じゃ。
それから、いたずらっ子をいさめる
役立つお話。
日頃は暗い影や
人の目につかない暗がりをゆくものたちがいる。
日暮れの遅いこの季節には
見慣れぬ影が
つい目に入ってしまっても、
その異形に驚いてはいけない。
恥ずかしがり屋で
臆病なあのものたちは──
見つかったと知られたら
何をするか予想もつかない。
闇に潜む子たちと
目が合う前に──
いつまでも遊んでいたくなる黄昏時も
あまり暗くなる前に帰らねば、
というわかりやすい教訓のための
誰にでもわかるただの作り話──
そういったものを子供に言い聞かせてゆくのじゃ。
ところで──
四谷怪談のモデルになったお岩さんは
実在の人物なのだが、
本当のところは誰に恨みを抱くこともなく
穏やかな人生を過ごしたのだという。
でも、だとすると
四谷怪談を演目で扱うたびに祟りが起こり、
今でも必ず四谷怪談を題材とする時は
関係者がお払いに行かねばならないと言われるのは──
祟りはどこからやって来て
誰に許しを乞うているのであろう?
もともとはただの作り話にしか過ぎないのに。
兄じゃもあまり帰りが遅くならないように気を付けるのじゃ。
おうちでかわいい家族がみんな首を長くして──待っておるからな。
フフフ。