『倍のお返し』
夜遅くになってドアを叩く
怪しい押し売りが
売りつけてくるものは──
条件付きで叶えられる
三つの願いだという。
いくつかパターンがある
物語の類型の一つだ。
たとえば、ある場合において
条件というのは
自分の敵に自分が願った分の
二倍がそのまま与えられるというもの。
考えに考え
悩みぬいて出した願いであっても
相手は労せずしてその恩恵を得るというわけだ。
願いの回数を重ねるほど
収まらず膨れ上がる煩悶──
心安らかな時を忘れていく──
まさしく悪魔の取引と呼ぶにふさわしい。
これが人から人へ語られるお話である限りは
すっきりと納得がいく結末があって
幕を閉じるわけだが
世の中のことを何も知らない
考えなしの頃の私の部屋を
甘い言葉で惑わそうとする指先がノックした時には
正しい答えなど一つも
知らなかったわけだから──
どうだ?
あらゆる願いが叶うには
簡単ではないとよくわかるな。
あるいは、それを教えるための寓話として
考え出されたのかもしれない。
思わぬ事態に巻き込まれた時のための学びを
日々欠かさないようにしたいものだ。
何が幸運で何が不幸か
時が巡りやがて塵になくなるまで
誰にもわからない──
片付けをサボっているだけにしては長い言い訳だって?
フフ──ばれてしまったな。
これがただのごまかしの作り話だとして
もう少し長引かせるためには──
幼い私が何を願ったのか
興味を引かせていくべきだろうな。
でもまあ──
悪魔の願いも当てにならないものだ。
まだ叶ってはいない──
この宇宙にある残らず全ての音楽を
いつでも好きなだけ、
できればそれほど大きくない出費で
実現させてほしいというのは。
今、私の敵とやらも
楽しみつくすには難儀しているはずだ。
あと二つの願い?
まあ、想像はつくだろう?