真璃

『おはなし』
おはなしをしましょうね。
誰だって朝から晩まで
休まずに土埃の中を転がりまわってばかりは
いられない。
手を洗って
テーブルでお行儀よくするとき。
お風呂でさっぱりして
湯冷めしないうちに
お布団へ飛び込むとき。
みんなみんな──
おはなしをせがむの。
おはなししてあげるのは
お姉ちゃんのお仕事。
本当にあったこと、
昔の言い伝え、
小さい子のためにその場で作る
良いおはなし──
などなど。
フェルゼンだって
マリーがどんなおはなしをしているか
聞きたいでしょう?
でも──
だいたい何も考えないまま
妹たちの反応を見ながらだもの。
フェルゼンが子供みたいに
喜んだりはしゃいだりしたら
いっぱいいろんなことを
おはなししてあげてもいいけれど!
たとえば最近は
桃色の花や
土の中から目を覚ます生き物たちのおはなしは
そろそろ物足りなくなってきたようで、
小雨お姉ちゃまの花壇から
勢いよく背を伸ばす
たくましい雑草だとか、
山の方から
勢いを増すせせらぎの
涼しげな流れに潜む秘密だとか──
緑のワイルドな匂いがするほうが
みんなの食いつきがいいのよね!
ヒカルお姉ちゃまを追い抜きたくて
かけっこをする
汗と努力の匂いとか、そういうの。
フェルゼンもヒカルお姉ちゃまを見つめる視線が
なんだか特別だわ。
負けることはできないライバルだって感じが──ちょっとするわ!
季節を問わない人気があるのは、努力して夢をかなえるおはなし。
どう?
いっぱい春を堪能した日の
さわやかな風が吹く場所で──
マリーのおはなし
聞いてみない?