真璃

『誘惑』
ドキドキするし
ムズムズするし──
みんなが大好きな
チョコレートの匂いが届くと
もう、誰もが我慢なんてできないわ。
いてもたってもいられない。
ああ、麗しのチョコレートパン。
オーブンから揺れる香りが
マリーたちを誘っているの。
今日のおやつの時間は
うれしいチョコレートパン!
まだ小さくても
マリーは知っているの。
靴を鳴らしてお店を眺めて歩き──
本を広げ
ネットの海を渡って
今どきの女の子たちは
胸の奥で何かが響くかわいいお菓子を
見つけ出してゆくの。
そしてまだちっちゃな
子供たちは
あこがれて、背伸びをして、手を伸ばして
エプロンを揺らして歌うお姉さんたち
近づこうとする。
同じ通りを歩き、同じ店を目指し
ページの開きやすい広げた跡のついた本を見つけるの。
ときどきおねだりをしたり
大きくなった時に自分がそうなるために
意識しなくても
わたしたち──
自然と大人になってしまうの!
でも心配しないでね、
フェルゼンを置いて大きくなっていったりはしないし
それに、大人になった春風お姉ちゃまやヒカルお姉ちゃまのほうが
フェルゼンのそばにいつもちゃっかり
いるんですもの。
きっとそういうものなのね。
フェルゼン、今日はまだ
お皿を並べて妹を整列させるくらいしか
大人っぽいことはできないマリーだけど
お手伝いとかなんとかなんでも理由を付けられるように
かしこくなって──
いつも一緒にいましょうね。
それに、一緒に食べるとおいしいっていうのも
理由になるかな?
マリー、なんだかおなかがすいてきちゃったな!