『楽しみは』
ええっ!
もうこんな時間!?
気が付けばもう
子供たちの元気な声が聞こえ
おやつを狙うゆかいな歌声まで
キッチンのほうに届く時刻。
時計は無常に回り続け
無邪気に手元の本に没頭していた蛍までをも
容赦なく追いかける魔物です!
お兄ちゃん、今日は妙なお天気でしたね。
さわやかに冬の青空が広がったと思うと
神秘的な霧に包まれて
寒い中を帰ってきたりはしなかった?
多少気にしつつも
それどころではなくて帰ってからのことに気を取られていた蛍が
私たちのお兄ちゃんのために
お茶を淹れます!
家で待っている何がそんなに
蛍を夢中にさせているのかというと
たいしたことではないんだけど、
本当に全然たいしたことではなくて困るんだけど
時間を奪われてしまった事情については
話さなくてはいけません。
いいえ、聞いてほしいの!
だってすごいんです!
レンジでまさか
こんなにやわらかく鶏肉が手早く仕上がり
簡単なひと手間を加えるだけで
お皿に乗せてみんなの食卓に運んでいいだなんて!
前から知っていれば
もう一品増やせる日が増えていたかもしれないのに。
みんなで過ごしたお正月、
お年玉を握って本屋さんへ向かう
明るい顔の子供たちについつられて
一緒に付き添った蛍が手にしたのは
どこにでもよくあるお料理レシピの
はずだったのが──
こうして不意に手に取る出会いで
未知なる世界の扉が開いていくとは
まさかまさかの
思わぬときめき!
どきどきする……
今日もそろそろ
献立を考えて冷蔵庫をごそごそする夕暮れ。
さっそく覚えたことを試して
おかずを一品プラスするチャンスにしたいところなんだけど
本を開きっぱなしで見ていようとすると
閉じちゃうし……
うーむ!
いつでも蛍のそばで本を開いて
やさしく解説しながら教えてくれる
すてきなお兄ちゃんがいればなあ!
なんちゃって。
もしお兄ちゃんのお時間があったら
お願いしてもいいですか?
そしたら蛍は
お兄ちゃんだけに特別な
ときめきの大盛りをお約束します!
えへへ……
おいしくなるといいね!