小雨

『大きな根っこ』
乾燥が続いてまだ固い──
黒くて土の匂いもあまりない花壇だけど
この時期に植えるとちょうどいい種もあるから
穴を掘って固形肥料を混ぜ
土とよく馴染ませて──
これから暖かくなると
雑草や虫を除けながらの手間もかかるようになります。
だけど手をかけたらその分だけ、
愛情を込めた分だけ確かに
花が応えてくれる。
と思うので──
このごろ時間を見て
進めている春の計画。
面白がって見ている子が
手伝ってくれることもあって
一緒に花が開いたときの話をするのが
この時期の一番の楽しみ。
お手伝いが得意な女の子たちがもうすぐきれいになるのと
色とりどりで飾られた花壇ができあがるのとでは
どちらが先になるでしょうか?
掘り進めた地面から
奥の奥まで伸びた固い根っこがあらわれて
とてもシャベルでは歯が立たない難関になってしまうことも
たまにはありますが
地道に毎日ゆっくりと──
それ以外の方法は何も知らないみたいにして
もうすぐ種が眠る場所を開拓してゆきます。
みんなは長く伸びた根っこを見て
植物の強さを思い
冬の間にこんなに伸びるなんてすごい、
それに比べて自分は何をしていたのだろうって
己を見つめなおすときもあったりするのですが
小雨が思うに──
根っこが伸びるのは葉っぱから栄養をもらっているからであり
葉っぱが落ちた冬の間は草木もじっとしているばかり。
これは暖かい頃に長く伸びた根っこが残っていただけではないでしょうか。
だからたぶん冬の間は
良い子のみんなががんばっていた分
私たちの家族のほうが成長を続けていたはず──
と、小雨は伝えたかったのに
あまりに感心しているものだからつい言い出せずに
なってしまいました。
本当はがんばるみんなを褒めてあげたかったの。
こんな土まみれの手で撫でてあげるわけにはいかないけど
えらいみんなのことを小雨はよく知っているよって
いつか言えたらな──
芽が出たらそこからは
つぼみが膨らむまであっという間です。
誰でも花壇の前を通るときに
心が和むような──
これから生命力の強さを伝えてくれる
小さな種たちに協力して
気持ちのいい景色を作るお手伝いができたら。
小雨もうれしくなることが多くなりそうな季節が
一歩一歩近づいています。