『スペシャルメニュー』
おでかけの日は
みんなと一緒。
一人では家の中にこもりっぱなしで
不健康な小雨でも
手を引いてくれる家族がいるから外に出て行ける。
足手まといにならないか、迷惑にならないか
ときどき心配になって
すみっこや狭い暗がりにひそんで
丸くなってしまいたくなる小雨でも
まさに春の暖かさで
桜も咲いている。
家族もにこにこ楽しそうで
小さい子達はちょっと目を離すとどこかへ飛んで行きそうなくらいで
見ているだけで元気になるみたい──
本に目を落としてばかりいたからまだわかっていなかったのかもしれません。
きれいな文章で描いた
絵のような美しく優しい景色がこの街にも広がっていたこと──
淡い色の花をつけて大きく腕を広げる枝の力強さ。
つい口元から心の揺れる声がこぼれてしまう瞬間が確かに存在すること。
小雨の声はちょっとまぬけだったけど……それだってみんなとなら
顔を見合わせて微笑んでしまう体験。
まだそれほど強く照りつけるわけでもない日差しと
ほんの少し伸び始めた緑の生き生きとした鮮やかさは
まだ寒くも感じる風が吹いたら飛んでしまいそうな儚さで
小雨に襲い掛かるおそろしいあの夏の強烈さとは全然違うのに
まるでこの星で一番の季節みたいにまぶしく目に映っているの。
暖めてくれる日差しを
小雨は怖がらなくてもいいと
教えてくれているみたいに──
みんなとお花見ができてよかった。
本当はゆうべ、海晴お姉ちゃんが
眠れないかもしれないとそわそわしていたから
どうしようどうしようって心配していたんです。
小雨が心配したからといって何もできるわけではないのに……
でもふだんから心配事だらけで寝不足になりがちな小雨は
いつもお兄ちゃんを困らせてしまうのか
よく眠れる方法を教えてもらって
それに、相談に乗ってもらえることがあって
あまり役に立つ知識を持たない小雨でも
聞いたことがあるお話をしてあげられるだけなら──
上手に伝えられるか自信がなくて
小雨の話では頼りないかもしれないけど
お兄ちゃんの教えてくれたことだからって。
海晴お姉ちゃんは、小雨ちゃんの知っているすごい特別だと言ってくれました。
小雨とおにいちゃんで作り上げた
誰もまだたどりつかない知識を教えてもらっちゃった、と。
ふふっ──きっと海晴お姉ちゃんも知らないふりをしてくれただけだと思うの。
でも朝が来て元気の出ない小雨の前で
すっきりした顔でおはようって言ってくれたから
それで小雨は
本当は何の役に立っていないなんてこともあるのだとしても
でも、一人で勝手にうれしくなって飛び跳ねそうでした。
今日もみんなが楽しいこといっぱいで
元気に一日を過ごせました。
優しく包む春の日差しが明日も
小雨のすてきな家族のみんなを見守ってくれますように。