春風

『はばたき』
窓の外、
枝を大きく揺らす音に
目を向けると──
ヒラヒラと羽を落として
鳥が飛び立っていく背中が見えます。
羽の色からだと
白い鳥だったのでしょうか。
小さなさえずりを交わすすずめたちや
恐ろしい姿のからすとは
違った新しい何かが
私たちの家の庭を訪ねてきたみたい。
せっかくの出会いだから
過ごしやすいところだと思ってもらえたら
いいのですけど。
木の根っこでわいわい
いつも止まない大騒ぎの声がしているのは
遠くまでよく届く声と
どこまでも高く飛んでいく翼を持った
きれいな生き物にとって
どんな感じがするものなんでしょうか?
自由に好きな場所へどんな壁も乗り越えて
飛ぶことができるのなら──
寒さに震えながら寄り添い合って
どうにか冬を過ごしてきた私たちの暮らしは
ひととき止まり木で見つめるだけの
あまり縁のないものになるのかもしれないですね。
あんなに大変だった体の内側まで凍えるような日々も
このごろはようやく柔らかな光に
落ち着いて過ごせるようになってきた気がします。
これもみんなが良い子で体に気をつけて
仲良く過ごしてきたおかげ。
ここにしかいない大切な家族に
たくさん助けてもらいながら
もうすぐ春を迎えられそうです。
本当にもう、今すぐぽかぽか陽気で
ついついお弁当を作って飛び出していけるくらいならいいのに
まだまだ朝晩の寒さは油断できそうにないの。
気をつけてくださいね。
屋根の上から私たちの一日を見つけて
たちまち通り過ぎていった白い鳥は
春風をびっくりさせただけで
悪いことはしていないと思っていたんです。
なにしろ春風がびっくりしたら
王子様がすぐに駆けつけてくれたから
悪いことではなかったのは確かなんですけど
なんという暴れん坊だったのか
隙を見つけてキッチンに入り込み
戸棚を上手に空けて
おやつを食べて行ってしまったんです。
私の家のかわいくて良い子のみんなが
こんな悪いことをするわけはないと知っているわ。
まったく、いけないいたずらものがいたものですね。
少なくなってしまったおやつを補充するための緊急企画。
春が近い頃には突発イベントが起こるもので
明日は参加できそうな子を集めてお菓子作り教室の開催です。
王子様も興味があったら覗いてみてね。
生徒のみんなの励みになるし
味見もできます。
それに、気が早いかもしれないけど
春らしい明るいおやつ作りにも挑戦したいな。
鳥が運んだ新しい季節──
ぜひ春風と一緒に
暖かい季節の近づく気配を探して
素敵な時間を過ごしてみてください。