夕凪

『花壇その2』
あれれっ!
ここはたしかに
わがやの中。
お掃除をすませた後の玄関。
ぴっかぴかの廊下。
なのになぜか
落ちている一粒。
指先につまめるくらいの大きさ。
張りがあって指を押し返す固さ。
いい感じで
さなぎみたいにくすんだ色。
まちがいない。
お花の種だ!
ええーっ、どうして!?
いくら風が強かったからって
ここまで飛んできた?
それとも
そこらじゅうを走り回った夕凪の服に挟まって
ここを芽を出す場所と決め
いま落ちた?
ちがうよーっ!?
夕凪の家だよ。
芽を生やさないで
つるをのばさないで!
走って帰ってきたときに
ころんじゃう……
よし!
夕凪が花壇にお届けするよ。
お花の種の
本当に開く場所。
きっとふかふかした栄養のある土は待っている。
夕凪はあんまりお花の育て方に詳しくないんだよね。
教えてもらってもすぐ走って逃げるから。
星花ちゃんと吹雪ちゃんにおまかせーってしていたら
なんとかなったし。
なんとかならなくて悲しかったとき
夕凪のおやつを分け合ってはげましたりしたな。
そんな夕凪だから
自信はないんだよね。
花壇に持っていって夕凪の手で植えたら
芽が出るかどうか。
だいじょうぶ!
夕凪がどんなに器用じゃなくても
ここまで飛んできた力と
確かに力を秘めている固さがある。
この子ならうまくいくって!
わかるもん。
桜の花びらがはらはら舞ううつくしい花壇に
次に咲く花はどんな花?
映画では花壇を歩いたら
君のほうがもっと美しいよ……
そういう場所。
お兄ちゃんは誰と歩く?
夕凪はねえ
最近日当たりがよくってうれしいから
とっくに日焼けで黒くなりつつある。
お花よりもきれいじゃないねえ。
今は種の君は
こんなふうにならないでね!
すくすく日を浴びて
きれいな花を咲かせるために一生懸命になるんだぞ!
夕凪は仲良く遊ぶのに夢中。
あてもなくひたすらつっ走っていくついでに
きれいな花を咲かせるお手伝いひとつ!
たまにはかわいい心がけ。
うまくいくといいね。