綿雪

『しあわせの名は』
風が冷たい季節。
こすり合わせた手に
息を吐きかけ
どうにか家までたどりつけるよう
自分を励まして──
帰り道の途中
お姉ちゃんたちかかわいい妹たちか
それともたまたま帰りが早いおにいちゃんか
おうちの誰かに出会わないかなって
少しでも元気が出ることを思いながら
暗くなりかけた寂しい冬の道を
うつむきながら辿っていく。
寒い日が続くと
大切なことは──
体に気をつけること。
うがい手洗いをしっかりして
栄養もよくとるの。
なんとなく寒さが嫌だなって
お外で遊ぶのもおっくうで
あんまりおなかもすかないとか──
ごはんの支度のお手伝いも
めんどうになってしまうとかすると
ただでさえ体調を崩しやすい時期に
大きく響く
よくないことです。
元気がとりえの人でも
寒さが相手では油断はできない。
ほんの少しのおでかけで
体力は刻々と奪われていく──
たいへん!
ここであったまっていって!
たくさん
食べていって力をつけてください!
ということもあって
ユキはみんなが
なんでもおいしく食べられる気分になるかなと
なるべく好き嫌いをしない週間を
ひとりで勝手にはじめて
おうちの中はおいしいものばっかりだから
もう誰も苦手な食べ物なんてないように
なったらいいと思うんです。
栄養が大切な冬だから
ピンチこそがチャンスに変わる瞬間と考えると
きっと今だからこそ──できること。
すっぱいうめぼしも
ねばねばのなっとうも
冬場はお鍋でおいしく食べられるお野菜もぜんぶ
体にいいってお姉ちゃんたちが教えてくれるんだもの。
元気でいるから
海晴お姉ちゃんだって朝のお天気予報で
ふわふわのうさぎになって楽しく踊ったりできる。
あんなに楽しいお姉さんに
ユキもなりたい──
寒い冬に縮んでしまいそうな子供の胸の中、
本当なら春まだ遠い季節に
こわごわ芽を出したのは
小さな夢。
ピーマンもにんじんもグリーンピースも残さないで
いただける──
明るくて前向きなのが自慢のお姉さんに
変わっていくのは
体が弱いときがあったなんて忘れていける女の子。
もう灰色の曇り空や冷たい風の下でも
さみしい気持ちになんてならなくていいの。
玄関から明るいただいまの声を届ける
太陽みたいな暖かな笑顔が
わがやにもうひとつ、
まだ小さくても──どうか増えていきますように。