綿雪

ナイチンゲール
毎日寒い日が続いて
お庭で遊んでいた子がおうちへ戻ってくると
暖かいお部屋でゆっくりしたくなるのは
きっとふつうのことなの。
誰だって当たり前に
こたつでぐでーってしたい……
のかな?
お姉ちゃんたちから少し聞いた話では
どうやらそうらしいです。
冷たいお水でぞうきんをしぼったり
この時期は大変ですものね。
だけどちょっと待って!
ストップです!
こう、ユキが両手を広げて
お姉ちゃんたちのことはがんばってじっと見上げながら
妹のみんなにも怖いお顔をしてみせて。
できてないけど……なるべくユキの怖いお顔を、むーって。
寒いお外から帰ってきたら
おねがいなの。
まずは
うがいてあらいをしてください!
寒い冬はおそろしいウイルスが流行する季節だといいます。
インフルエンザ、ノロウイルス
とってもこわいの。
ぜったいだめ……
ユキのおうちの子が
ひどい病気になるなんて!
だめなんだから。
いけないのに……
風邪を引くことはみんなあるの。
うっかりこたつで眠ってしまったとか
お風呂上りにびたびたはだかで湯冷めしたら
元気な人だっていっぱつ直撃
はなみずをこぼしてベッドの中なの!
はだかで遊んでいるのんきな子がいたときには
氷柱お姉ちゃんも、お兄ちゃんも
びしぃって言ってあげるの。
気をつけること
見ていてあげること
だいじです。
氷柱お姉ちゃんに叱ってもらうぞ、じゃなくて
発見したら
だめよ、ってだきついて
動きを抑えて
かくほ!
服を着ているこっちまで少しべちょべちょで
かえっていたずらこぞうたちのテンションがみるみる上がってしまっても
止めないわけにはいかないから。
風邪の危険があるときは
ユキがばーっと飛んでいく。
そして、何事もない普通の毎日が過ごせるように
手助けをして
どこかへ去っていく……
夕日に染まるガンマンのように。
指を立ててふうっ。
それからあとのあいつのことは
誰も知らない。
どうなったかというと、実はお部屋に戻ってベッドで休んでいました。
怖い顔や、夕焼けの決闘ってちょっと気を使いますね。
バーのシャンデリアから飛び降りたりもしていないのにな。
ユキは気がついたときだけになってしまうけど
お部屋からみんなを見ていることが多くて
手を振ってもらって、振り返しながら
みんなが戻ってくるのを待っているからわかるの。
お外で遊んで
おうちに入ったら
すぐあったかいお部屋へ直行?
そのまえに
ほこりでいっぱい
ばいきんだらけ。
ユキがおしえてあげます。
洗面所はこっち!
おぼえてね。
お疲れなのにごめんね。
帰ってきた子はまず
せっけんのいい匂いになってからが
リラックスできる時間のはじまり。
疲れているときは体調を崩しやすいんだって。
いい子で手を洗ってきたら、いっぱい褒めてあげるから。
ユキ、もしも元気にお外で遊んだ後はこんなふうに言ってもらいたいって
よく想像していること
ちゃんと伝えてあげる。
元気でえらいね。
うがい手洗いもできていい子だね。
自慢の妹。
大事な家族。
とってもかわいい小さな宝物。
ぎゅっ
なでなで。
効果が意外とあるのかな?
ユキの想像力。
だってみんなはとってもいうことを聞いてくれることが多いの。
こっちですよ、ついてきてって先頭に立って案内する
ユキの言葉は
お姉ちゃんたちの誰よりも
いたずらぼうずたちが素直にしたがう。
夕凪お姉ちゃんまで、わーしかられるーって笑いながらユキを追い越して
いちばんに洗面所でお手本を見せるの。
もちろん
ぎゅっ、なでなでです。
えらいえらい
夕凪お姉ちゃんすごくりっぱ!
毎日こうしてぎゅってしたい。
ユキが大きくなってもずっとだよ。
いつも健康なえらい子でいますように。
本当は、もしもお体の調子が悪くなったらユキは何にもできないから
あんまり大したことはない。
一年生にできるだけの分しかできません。
ひゃくにじゅっせんちと少しの看護婦さんってあんまりたくさんいないみたいだもの。
まだいろいろ覚えながら大人にならなきゃ。
だけどお姉ちゃんたちは
おうちでいちばん看護婦さんになれそうな優しい子はユキだって
そう言ってくれるから。
ぜんぜんそんなわけないのにね。
でもユキは
自分が一番したいことをして
夢中になって遊んでいるのとあんまり変わらないままなのに
こんなにほめられるのって変な感じだなあと思いながら
今日もみんなを悪い風邪から守るため、日夜できることをしているのでした。
お兄ちゃんも、しっかり風邪の予防ができたら
ユキがいっしょうけんめい抱きしめて
とってもりっぱなユキのお兄ちゃんです、とほめてあげたい!
これから毎日こうしていたいと
一人でいつも願っているそんなことをいっぱい聞いてほしくて
元気な体のみんなのおかげでユキは喜んでいる。
厳しい寒さに、誰も調子を悪くなんてしないの。
誰一人、苦しそうな顔なんてしない──
ユキの毎日の祈りが
この冬には叶うかもしれないと、信じていたいの。