ヒカル

『迷いの森』
べつに悩み事だとか
困っているわけではなく
捨てるものは捨てる、
ただそれだけの話なんだけど。
肌を切るようなひりひり冷たい風の中、
日が高いわずかな時間を活用しての大掃除。
これを終えなければ新年は迎えられない!
とか思いつつ、全然そんなことはなく
新年はふつうにやってくる。
それはそうだ。
大掃除が終わらなかったら
時計の数字はいつまでたっても12月31日のまま、などと
怪談めいた話はまったくなくて
もしそんなことがあったら、間違いなく時計が故障しているのが原因。
新年早々、初修理だな!
それだけで笑い話はおしまい。
初笑いになるのかな……
なかなか初めては選んでいられないかもしれないな。
だから今年も残りわずかな日の大掃除、
もったいない気がして
なかなか捨てられないものがあったら
保留!
で、どんどん片づけを先に進めても問題はない。
とりあえず私の部屋はそれで困るほど物は多くなくて
あんまり他のみんなにも役に立つアドバイスとはならず
部屋で一人きり、孤独な掃除の真っ最中。
まあ同じ部屋の春風もいるけど、
家中の細かいお手伝いに出ていてたまに帰ってくるだけだし
私の手はいらないというから。
だってみんなで協力して体を使う大仕事もひととおり終わった。
家の中はどんどんピカピカに磨きこまれていく、
明日あたりに今年の始末も区切りをつけて
ついに目の前に迫った大晦日には、行く年を見送るおそばの準備!
それから来る年を待つおせちの総仕上げ。
今年の片付けはだいたい30日くらいを目標に、と声を掛け合っている。
それでもまあ……
整理が終わらない山積みの荷物が廊下まではみ出している部屋は
ぎりぎりまでずれ込む気配はあるかな。
紅白までには何とか、
それもまた年の瀬ならではの合言葉。
ゴミ出しは31日の朝までだけどね……
明日のうちにまとまらなかったら、捨てるのは新年になってから。
廊下の隅に押しやられたゴミ袋をながめて
終わらないよりはましか、
まあよくやった!
と声を掛け合う大晦日
指折り数えるまでもなく
もうまもなくの、すぐ目の前だ。
いらないものはまとめて出して、必要な分はすっきりしまって
部屋の掃除はもうすんだ?
男の子の部屋って物が少ないって聞くから。
旅行の時に持っていくものもあんまりなくて
身の回りのこまごました小物がぜんぜん必要ない
さわやかな日本男児の姿!
思い切り良く捨ててしまって後悔はしない。
たまには少し後悔もするらしい。
基本的には物が少ない男子の生活。
大掃除も
ばーっと並べて
いらないものを袋に詰めたら
もうおしまい。
勝手なイメージ。
もしかしたらオマエもそんなふうじゃないかって春風と話してる。
お手伝いしたいけど
おじゃまかしら?
ちょっとさみしい……
みたいなことを。
私じゃなくて、春風が言ってる。
いや、私も手伝えることがあったら手伝うよ?
ちまちま進めていたら
私も大体いらないものをまとめてゴミ袋に詰めたくらいで終わってしまった。
男の子に近いのかな……
あっというまにすっきり。
がらーんと。
あんまり細かいことは気にせず積んでおいた雑誌や生活の知恵やスポーツ記事、
使う当てもないちょっと形のいいお菓子の空き箱やおみやげの袋を
とっておくものでもないと捨てていったら
そんなにたくさんあったとは思えないのに
部屋はすっかり物がなくなって
さみしいような……
もちろん明らかにゴミだから名残惜しくもないし、
とっておく理由もあんまりないものばかりだけど
でもすっきりしすぎた部屋に慣れるのは
意外と時間が必要かも、とそれだけの話。
もうしばらくは
ベッドの横に積み上げてあるゴミ袋。
玄関まで出しておくのを後回しにして
後で気が変わってとっておくものがあるかも、なんて春風には言い訳しているけど
本当の理由は違う。
捨てると決めたものばかりなんだから。
あと一日だけ散らかしたままなのは
気持ちの整理。
大掃除に一番大事なのって
肉体労働でもなく、片付けの知恵でもなくて
受け入れる準備なのかな。
今年も終わり。
一年お世話になりました。
たくさんの思い出にありがとう、
みたいな。
あと二日あるけどね。